オデッサの体が薄汚れた水路を流れていく。

 せっかく形を成した解放軍は、呆気ないほどあっさりと崩れた。
 ここにはもう今までの解放軍はない。フリックもハンフリーもサンチェスもいない。あるのはオデッサが残した希望の欠片だけ。
 そしてそのちっぽけな欠片は、ちっぽけな少年に託された。
 以前は帝国五将軍が一人の御曹司。今はたった二人の供を連れた帝国の反逆者。解放軍の一員としてはおあつらえ向きだが、まだまだケツの青いガキだ。 まぁ、フリックの青さよりはマシか?
 冗談はさておき。そんなワケで、解放軍の命運はそのガキが握っているワケだ。実質的な味方は母親みてぇな男と、姉貴みてぇな女、そして俺。それだけ。 どっから見たって頼りねぇが……

     それでも、あまり嫌な予感がしな いのはなんでなんだろうな。

 こいつがオデッサに頼まれて、死体を水路に流すと即決した時も、このヤロウ! と思いながら、心の何処かで、次のリーダーはコイツ以外にゃいねぇんだと 思った。
 こういうのをカリスマって言うのか? オデッサもそれを感じ取って……そしてリーダーの役を譲る気でいたのかもしれない。そして運命はオデッサ の死という形で表れた。こいつがリーダーになるためにオデッサが死んだなんて、考えたくねぇが……結果として、そうなったようなもんだ。

 この先問題はたくさんある。今のところ気になるのは、マッシュという男の他には、旧解放軍のメンツが納得するかどうかだ。特にフリック。あいつにとって は解放軍よりオデッサの方が重要だったんだ。解放軍はそのオマケみたいなもんだ。オデッサが死に、こいつが代わりを務めると知ったら……絶対にキ レる。俺なんか絶対責められる。ただでさえ一員としてちゃんと認めてもらってねぇのに。

 でも……こいつなら乗り越えてくれそうな気がする。たんなる俺の思い込みかもしれないが、人を見る目はあるつもりだ。だぶん解放軍リーダーとし て、立派に役目を果たすんじゃねぇかな。
 あとは精神的にまいったりしないように、周りがうまくフォローしてやれば完璧だ。気合入れていかねぇとな。

 解放軍は大きな転機を迎えた。軍として形になるまでやることは山ほどあるし、簡単に事が進んだりもしないんだろう。だからこの俺が、旧解放軍のメンバー として(でもフリック未公認。知るかっ)新解放軍立ち上げのために、人肌脱いでやるぜ。


END

以前作った初期解放軍コピー本『志』より、ビクトールメイン で一つ、と思って書いた話。
彼、好きなんですけど、上手く動いてくれなくて、結局独白モノになってしまいました。
ゴメンよ熊さん……