盲目の男 


 ルカ=ブライトが討たれた時点で、もうおしまいだと思った。だからラウドは妹を連れて祖国から離れたのだ。
 何か計画があったわけではない。居場所を失った、ただそれだけのこと。今までハイランド側の人間として都市同盟に働いた無体は数知れず。だから当然都市 同盟に身を寄せるわけにもいかないラウドは、完全に孤立した。
 それでも彼が道を失わなかったのは、妹の存在があったからだ。
 妹の目を、治さなければならない。元々ラウドがハイランドで王子に媚びへつらっていたのもその為である。気に入られ、信頼されれば出世できる。上がった 給金で、トラン共和国(旧赤月帝国)の高名な医者に診てもらえると思ったからこそ、ラウドはなんでもやった。
 その計画が全て気泡に帰した今となっては、とにもかくにも医者の元へ――リュウカンという名の医者の元へ行くことだけが頭にあった。金は後でなんとかし ようと思った。どうにでもしてやろうと思っていた。妹の目に光が戻りさえすれば、あとはどうでも良かった。
 ただ、旅の間妹に過酷を強いることになったのは心苦しかった。ある程度貯金していたとはいえ、治療の頭金を残しておかなければならず、加えて自分の素性 が明かされるのを恐れ、道程に贅沢は言えなかったのだ。それでも兄を信じて不満一つ言わない妹が、尚更不憫でならなかった。
 不幸中の幸いと言えるのは、都市同盟がトラン共和国と同盟を結んだことにより、トランへの入国が以前に比べて容易くなったこと。盲目の少女を連れ、「戦 火を避けながら、ハイランドから遠路遥々リュウカン殿を訪ねてきた」と言えば、誰もが警戒を解き、親切にしてくれた。

 やっと辿り着いたトランの地。

 ――まさかこんなオチが待っていようとは。



 兄と妹の二人旅。加えて盲目の妹は戦う術を持たない。魔物に囲まれてもラウド一人で切り抜けなければならず、当然無傷で済むはずもない。妹には大丈夫、 心配ない、大したことないと言い続けたが、夜中にリュウカンの庵の戸を叩いた時には満身創痍の状態だった。
 眠る妹を背負いながら、出てきた老人に朦朧とした意識でリュウカン殿かと尋ねる。肯定の返事を聞くと、「妹の目を」とだけ呟き、ラウドは意識を手放し た。
 これでやっと、とおそらく夢の中で思った。これでやっと妹の目が見えるようになる。目を覚ましたら、可愛い妹が素敵な笑顔で朗報を聞かせてくれるのだ。 おそらく夢の中でそう期待して、そしてラウドは目を開けた。
 自分を看病していたらしい老人――記憶がおぼろげだが、多分リュウカン――が、傷口から細菌が入り、感染症で三日三晩ずっと眠り続けていたと言った。そ んなことはどうでもよかった。妹は?妹の目は?
「……残念じゃが、手遅れじゃ」
 苦しそうな顔でリュウカンが首を振った。
「なんだって?」
「もう手の施しようがない。もう少し早ければ、あるいは」
「……」
 テオクレ。……テオクレ?ってなんだ?
「妹の、目は」
「見えることはない」
 ミエルコトハナイ。
 見えることは、ない――
「嘘だ」
 そんな馬鹿なことが。
「てめぇ、偽物だろう!?」
 ラウドはリュウカンの胸倉を掴んだ。
「そんな話信じられるか!! だって妹は、今まで、ずっと!」
 頑張って、今まで。目が見えるようになると、俺を信じて。
「っ……!」
 爆発的な怒りを、悲しみの奔流が押し流した。リュウカンから手を離し、うなだれる。
「……いつだったら……良かったんだ……?」
 ラウドは呻くように問うた。だがリュウカンは首を振るだけだった。過ぎたことを仮定しても意味がない。ただ、妹の目は光を見ることは決してないという事 実がそこにある、ラウドはそれを受け入れなければならない。
 畜生。ラウドは毛布を握り締めた。畜生なんで、なんでこんな目に遭わなけりゃならない。こんなに妹の為に頑張ってきたと言うのに――
「……お兄ちゃん……?」
 部屋と扉が開き、少女が眠気眼をこすりながら顔を出した。
「っ!」
 妹。決して光をみることのない、目。
 ――この時ラウドの中で起こったことを、なんと言ったらいいか。
「こら、待ちなさい!!」
 ラウドはベッドから出た。急激に膨らんだ衝動に駆られ、リュウカンの庵を飛び出した。冷えた夜気の中、包帯のみをまとった上半身をさらして。
 そして、妹を置いて。
 細い月が笑う中、ラウドは走った。何処へというのもなく、ただただ我武者羅に走った。まるで逃げるように。
 そう、彼は逃げているのかもしれない。現実から、そして妹から。ラウドを襲った感情を、恐怖と言ったらいいだろうか……とにかく彼は走ったのだった。
 弱った体ではそう長くは続かない。やがてラウドはつまづいて転倒するように膝を付く。荒く呼吸を繰り返すたびに喉がヒューヒュー鳴いた。ラウドはそれが 自分を嘲笑っているように聞こえて腹が立った。
 体が重い。息が苦しい。俺ぁ一体、何をしているんだ。一体全体、なんでこんなことになってんだ。
 俺はただ、妹の目を見えるようにしてやりたかっただけだ。そりゃぁ、ついでに名声とか手に入りゃぁ万々歳だがよ……そんなの誰だって望んでることじゃ ねぇか。俺は何か悪いことしたかよ? 何か悪いことを望んだかよ? 俺ぁただ、将来妹と穏やかに過ごせりゃ良かったのに。
 ラウドは歯噛みする。何処でだ? 何処でおかしくなっちまった? キチガイ王子の命令に従って、念入りに準備をして万全た態勢でユニコーン部隊を潰して ――

 アイツ等。

 ラウドの頭の中に二人の少年が思い浮かんだ。
 そうだ、あのガキ二人。キサラギとジョウイ。
 アイツ等が全てを滅茶苦茶に。
 妹の目を、俺の未来を。
 全て、滅茶苦茶に。

 ラウドの中で、プツリと何かが切れた。





 国境警備隊長のバルカスは、トラン側のゲートが騒がしくなっていることに気が付いた。時折悲鳴や剣戟の音も聞こえる。
「隊長!」
 部下が血相を変えてバルカスの側に跪いた。
「何事だ?」
「不審な男が関所を通過しようとしています。止めようとしたら剣を抜いて暴れ始めました」
「一人か」
「はい」
 バルカスは愛斧を手にしながら渦中へと向かった。その後に部下が続く。
「一人くらい取り押さえられんのか」
「申し訳ありません。腕が立つ上に、放つ気迫が尋常ではなく、気圧されてしまうのです」
「はーん」
 辿り着くと、十人程の兵士が武器を手に男を取り囲んでいた。
「なんだありゃ」
 バルカスは目を丸くした。男の出で立ちがあまりにもみすぼらしかったからだ。
 髪はぼさぼさ、ヒゲの手入れもしれおらず、上半身は不衛生極まりない汚れた包帯にぼろぼろの布をまとっているだけ。ズボンはまだマシだが、裸足である。 そして各々手には錆や血がこびり付いた剣と鞘。
 兵士が一人斬りかかる。
「邪魔をするなぁぁっ!!」
 気のふれたような叫び共に男は兵士の剣を弾き返し、一閃。兵士は咄嗟に体を捻って回避したが、更に攻める隙を見出せず後退した。
「このような状態でして」
「……確かにあの目は正気じゃねぇな」
 貧相な姿に、目だけが異様な輝きを宿していた。そのぎらつた視線で睨まれると、兵士達は一様に飲まれてしまうのだ。
「風の紋章は?」
「試しましたが駄目でした」
 部下の返答にバルカスはため息をついた。
「雷か、んじゃ」
「ですが、殺しかねませんよ?」
 不審者は精神力は強そうだが、肉体は酷使されているように見える。初級魔法でも耐えられないかもしれない。
「ふむ」
 バルカスは思案した。こうしている間にも男の剣は兵士に手負わせている。死者が出る前に何とかしなければならない。
「お前等、道を開けろ!」
「隊長!」
 一体何を言い出すのかと隊長を咎める。しかしバルカスはいいから早くしろと指示を出す。兵士達は言われた通りに道を開けた。
 男は一瞬いぶかしげに目を細めたが、あまり深く考えなかった。……というよりは、もはや満足に思考は働かないのかもしれない。ふらふらと門をくぐろうと した。
 バルカスは石を拾い、隙だらけの男の頭へ投げつけた。



「――ってな事があったんですよ」
 コーヒーをすすりながらバルカスが言う。テーブルの向かいに座る少年は苦笑した。
「何故国境を越えたかったんだろうね?」
 少年はセイカイだ。解放戦争の英雄、セイカイ=マクドール。
 ここは国境警備隊の砦にあるバルカスの執務室。セイカイは都市同盟軍の城から家に戻る途中で、今晩は砦で一泊するつもりだった。
「尋問しようにも、正気を失ってましてね。抜け殻みてぇに身動きしねぇ、飯も食わねぇって時と、突然喚きながら暴れ出し、獣みてぇにガツガツ食ったりする 時とありやして。まともに話ができねぇんでさ」
「ふぅん」
 相槌を打ち、セイカイは紅茶をすする。
「ただですね」
「うん」
「どうも都市同盟の盟主と、ハイランドの国皇に恨みがあるようなんですよ」
「キサラギと、えぇと、ジョウイ=ブライト?」
「ええ。時々名を叫んでぶっ殺してやるとかなんとか」
「……」
 セイカイはしばし思案する素振りを見せた。
「ちょっと会ってみようかな」
「えぇっ? 別にセイカイ様がわずらう必要は」
「でも僕とキサラギは友達だからね。そう伝えれば、もしかしたら何か出てくるかもしれないよ?」
「あー、まぁ、それは確かに」
 では早速と、セイカイは立ち上がった。
 バルカスに連れられて牢屋へと向かう。静まり返っているので、どうやら今は抜け殻になっているらしい。
「コイツです」
 示された牢屋を覗くと、鉄格子の向こうに聞いていた通りのボロ雑巾のような男が、これまた聞いていた通りの抜け殻状態で座り込んでいた。目が造り物のよ うに虚ろである。
「やぁ、君がキサラギとジョウイを捜している人か」
「……」
 男が目だけをセイカイに向けた。口にした名前に反応したようだ。
「僕はキサラギの友達でね。先日も会ってきたばか」
「キサラギを出せ!!」
 セイカイの言葉を遮り、男は鉄格子にしがみついて叫んだ。
「奴は何処だ! ぶっ殺してやる! キサラギとジョウイ!!」
 抜け殻の時には想像もつかない眼力と気迫である。
「どうしてキサラギとジョウイを“ぶっ殺したい”の?」
 セイカイは静かに問いかけた。
「アイツ等は俺の全ては滅茶苦茶にしやがったんだ!! アイツ等さえいなければ妹の目が見えるようになっていたはずなのに!」
「妹?」
 男には妹がいるのか。しかし、目が見えるようになっていた……?
「その妹さんはどうしたの?」
「!」
 男は意表を突かれたような顔をした。
「あなたの、目の見えない妹さんは、どうしたの?」
「妹、は」
 男の目が虚空を凝視する。
「……妹さんはお医者さんに診せたの?」
「……手遅れだと……」
「誰に手遅れだと言われたの?」
「リュウカン」
 その名を聞いたバルカスは思わずガッツポーズを取る。
「バルカス」
「おぉさ!」
 言われるまでもない。バルカスはすぐにリュウカンの元へと遣いを出した。



 怒り。悲しみ。絶望。
 感情が渦を巻き、暴れている。時々抱えきれなくて放棄した。
 何か、大事なものを忘れているような気がする。思い出そうとすると、憎らしい少年二人を思い出した。暴れ始める渦。時々抱えきれなくて放棄した。
 何か大事なものを、忘れているような気がする。なんだったか?
 目。
 目だ。
 なんの?
 見えないんだ。アイツ等のせいで。アイツ等って誰だよ。キサラギとジョウイだ。殺す。ぶっ殺してやる。
 目だ。目が見えねぇんだ。ア イツ等を殺さなきゃならねぇ。目だよ目。殺さなけりゃ。目。目、目、メ、め。め? 目。殺す。キサラギ。ジョウイ。目。見えねぇよ。見えるじゃねぇか。俺 じゃねぇよ、目。目ェ見えねぇんだよ。
 誰の?
「お兄ちゃん!」
 お兄ちゃんの?
「お兄ちゃぁぁん!」
 少女が泣いている。自分にしがみついて泣きじゃくっている。お兄ちゃん、お兄ちゃんと泣きじゃくっている。
 お兄ちゃん。
 あぁ、お兄ちゃんだ。俺はお兄ちゃんだ。なんだ。なんで泣いてるんだ。
「あたし、目見えなくていいからっ、お兄ちゃんがいなくなるんだったら、目が見えなくていいからっ!」
 目が、見えなくて。
 お兄ちゃん。
 ――突然目が覚めたような感じだった。
 腕の中に、妹がいる。しがみついて泣きじゃくっている。
「お前、なんで」
「お兄ちゃん!」
 兄の意識がやっと自分に向いて安心したのか、妹は更に泣き出した。
 パチン、と顔の前で指を鳴らされる。反射的に顔を上げると、少年と目が合った。
「……何が、どう……?」
 状況が分からず、ラウドは戸惑った。そんな彼に少年が微笑む。
 見知らぬ少年だ。だが何か覚えが――
「それは後で。今は妹さんに再会の喜びを噛み締めさせてあげるといい。牢屋の鍵は開けておくから、落ち着いたら出てきて」
 そう言って少年は控えていた男と一緒に牢屋を出て行く。
「……」
 ラウドは妹の頭を撫でた。
「お前の目、治せなかった……約束破っちまった……」
 申し訳なかった。そして妹に幻滅されるのが怖かった。だが、己の口から言わなければならなかった。
 だが妹は首を振った。
「いいの、いいの。お兄ちゃんがいてくれたら、後は何もいらない」
 ラウドは妹を抱き締めた。何処までも妹は兄思いである。
 だが自分はどうだ。目の見えぬ妹を置き去りにして失踪。最低だ。人からはたくさん言われてきたが、自分で思ったのは初めてだ。俺は、なんて最低な人間な んだ。目も当てられぬ。
「あたしこそ御免なさい。お兄ちゃん、今まであたしの為にずっと頑張ってくれたのに、治らなくて御免なさい」
「違う、お前のせいじゃ、ない。お前は少しも悪くないんだ」
 闇の中、独りでさぞや心細かっただろう。そんな妹を置いて突然いなくなった兄をそれでも妹は非難せずに、それどころか自分が悪いのだと自分を責めてい る。
 こんな、こんな健気な妹を、俺は蔑ろにしたのだ。最低だ。最低だ。俺は、最低に愚か者だ。
「すまん、すまん、すまん」
 今度はラウドが泣き出した。妹にしがみついて。
 俺はなんて自分勝手な男だ。きっと、以前から自分勝手だったに違いない。妹の為だと言い訳しながら、ひたすら自分勝手だった、きっと。
「お兄ちゃんのせいじゃないよ。お兄ちゃんは悪くないよ」
 妹が兄を慰める。なんて情けない光景。申し訳なくて、ラウドは妹の顔を見れなかった。
「もう何処にも行かないでね」
「あぁ、もう何処にも行かない。約束する。これは絶対に破らない」
「うん、約束だよ」
「あぁ、約束だ――」
 二人で抱き合い、しばらく泣いていた。




 何か覚えがあると思ったら、キサラギに似ているのだ。
 顔や言動が、ではない。雰囲気でもない。
 目を向けずにはいられない――そんなところが、キサラギとこのセイカイという少年は似ているのだ。
 解放戦争の英雄、セイカイ=マクドール。
 ああ、どうしようもなかったんだなと、ラウドは思った。
 キサラギは運命の星の下にいる。セイカイを知り、それを思い知った。かと言って、少年への憎しみがを消せるわけではないが。感情と理性は別物だ。
 ――そのセイカイが、居場所を提供すると言う。
「盲目の妹さんがいるんだから、早めに腰を落ち着けた方がいい。でも都市同盟にもハイランドにも戻れないだろう?」
 元ハイランドの兵士ラウド、という情報くらいは妹から聞き出せたのだろう。その妹は泣きつかれて別室で眠っている。ラウドは湯と服をもらい、身奇麗にし て少年の向かいに座っていた。
「ではトランにいることを許可して下さるのか」
 ラウドは丁寧な言葉で言った。相手は少年とはいえ恩人である。しかもかつての英雄だ。
「もちろん。貴方が憎しみを心の中に封じると約束するなら」
「……忘れろ、ではないんですね」
「感情とは難しいものだからね。僕もいろいろ経験しているから、ある程度は理解あるつもりだよ」
「私の憎しみが御友人に向いていると分かっていてもか」
「もちろん」
 少年は何事もないかのように微笑んでいる。かつての英雄というのは伊達ではないようだ。
「貴方にはそんなものよりも大事な人がいる。僕は貴方がそれを忘れることはもうないと思うんだけど」
「……」
 確かにセイカイの言う通りだった。もう復讐などに気を取られるわけにはいかなかった。これ以上妹に辛い思いをさせるわけにはいかないのだ。
「で、何処を居場所として提供して下さるんですか?」
「ここから少し南下するとカレッカという町がある。そこに」
「カレッカ?」
 ラウドはその名に覚えがあった。あまり重要な記憶ではないとは思うが……
「旧赤月帝国が自ら滅ぼした町」
「あ」
 思い出した。都市同盟が赤月帝国へ侵攻した際、壊滅させた町とかなんとか。
 え?
「帝国が自ら滅ぼした?」
「そう。そして都市同盟にその罪をなすりつけた」
 都市同盟と赤月帝国の攻防が一進一退を繰り返している中、赤月帝国が同盟軍を押し返す策としてレオン=シルバーバーグが起案したのが、カレッカの悲劇と 呼ばれる罪のなすりつけである。同盟軍にカレッカを滅ぼされたと思い込んだ帝国軍は怒りで奮起し、同盟軍を退けることに成功した。
「……」
 ラウドは顔を伏せた。何処かで聞いたことのあるような話だった。
 いや……聞いたことがある、では済まされない。似たような作戦をラウドは実行したのだから。
「因果と思うかい、ラウド隊長?」
 少年に問われ、ラウドは顔を上げた。
「貴方の名はキサラギから聞いたことがあるよ。元ユニコーン部隊隊長殿」
 穏やかな微笑みをたたえたまま、セイカイが言う。
「憎しみなんていうのは、一筋縄じゃいかないものさ。たくさんの因果がこんがらがってできている。だから僕は特に貴方を責めようとは思わない」
「……」
「貴方がキサラギやジョウイ=ブライトを憎むように、キサラギやジョウイも、そして無惨な作戦で死んでいった少年兵達や、今回の戦争に巻き込まれた者達全 員、某かの憎しみを抱いているかもしれないんだからね。傍から見れば、どうしようもないよ」
 そう言ってかつての英雄は笑った。
「ああ、別にカレッカで罪滅ぼししろとか言ってるんじゃなくて、復興の手伝いをして欲しいんだ。復興を始めてから三年以上経つけど、一度魔物がはびこるく らいに朽ちた町だったからね、まだまだ人手が欲しいんだ。特に貴方みたいに体力や力があって戦い慣れしている人が」
 それに貴方自身、憎しみと向き合ういい機会になるんじゃないかなと、セイカイは大事なことをついでのように付け加える。
「承知しました」
 ラウドは答えた。セイカイの好意を受けることにした。何もかもがセイカイの言う通りだったから。
「ありがとうございます」
 ――生きなければ、とラウドは思った。妹が笑顔で過ごせる環境を、この自分が手に入れてあげなければならないと思った。
 妹と約束をした。これだけは絶対に破るわけにはいかないのだ。



END

ラウド好きなんです。盲目の妹がいると知る前からです。
知ってからはますます好きになりましたよ。もう妄想大爆発です。続きます(爆
実はもう少し無惨な話でも良かったかなとか思ったんですが、
(ラウドが失踪後2主と対決して討たれるとか、無差別殺人鬼化とか)、
でも読み手からすれば不快極まりないかなと思ってやめました(笑