空より舞い散る淡いカケラ

大地を埋めて 私を埋めて


サイゴに聴いた唄はまだ唇の中


時が来るのをひっそりと待っている



視界の隅で踊る陽炎

だんだんと消えてゆく


唄のように



私は独り


時が来るのを待っている


時が来るのを待っている


私を埋めたサイゴの唄は


時が来るのを待っている





SNOW


 雪が降っている。
 辺りの音を吸い取って、静寂を奏でる。
 しんしんと、しんしんと。
 何もかもを覆い尽くそうとして。
 ……いいえ、覆い尽くさんばかりに。
 雪に意思などあるわけもなく、それは私の願望に他ならず。
「……オデッサ」
 後ろからかけられる声。優しい、男性の声。フリックだ。私は振り返らない。
「風邪をひく」
 私に降る雪が止んだ。傘。ついでに頭と肩に積もった雪をフリックの手が払う。
「ねぇ、フリック」
「うん?」
「雪って、どうして夢を見せるのかしら」
「夢? どんな?」
「何もかもがなかった夢」
「オデッサにはそれが見えるのか」
 戸惑っている。フリックは声に気持ちがすぐ現れる。私は答えない。
「……今も、そう思ってるのか?」
「貴方の声が、遠いわ」
 思っているとは言わない。思っていないとも言わない。……ちょっと意地悪なことを言っていると思う。
 私はフリックをどうしたいのかしら?
 ――フリックはため息をついた。
「俺にもオデッサが遠く感じるよ」
 そう言ってフリックは、私を後ろから抱きすくめる。ストレート。相変わらず私への想いは何よりもストレート。
 私はそんなフリックに甘えていると思う。私が何処を見ていようと、フリックは私を見ている。
 フリック……フリック。
「風邪を、ひくわ」
 傘は、落ちていた。私を抱きすくめた時に。
 雪が私達を覆い尽くそうと降りしきる。
 ……いいえ、覆いつくさんばかりに降りしきる。雪に意思なんかない。それは私の願望。
 ただ、この時を、一瞬を、切り取ってほしい私の、願望。
 雪が降っている。
 辺りの音を吸い取って、静寂を奏でる。
 しんしんと、しんしんと。



空より舞い散る淡いカケラ
大地を埋めて 私を埋めて

サイゴに聴いた唄はまだ唇の中

時が来るのをひっそりと待っている

視界の隅で踊る陽炎
だんだんと消えてゆく
唄のように

私は独り

時が来るのを待っている
時が来るのを待っている
私を埋めたサイゴの唄は
時が来るのを待っている



END

哀しく切なく愛しい雰囲気を感じていただければ幸い。
私のイメージするオデッサは基本的には強い女性ですが、こういう闇も抱えています。

そして、オワリへの、暗示。