8月13日

IL−TOP
 心霊写真や動画、サーモグラフィー等のハイテク機器による感知と同じ原理なのだろう。アイアンリーガーが人よりもよく“見る”というのは有名な話である。

『見えても見えなくても、何も言うな。何を訊かれても分からないと答えるんだ』



 マッハウインディとトップジョイが騒いでいた。先日閉鎖されたばかりの廃ビルの前を通りかかったら、窓から女性らしき姿が見えたのだという。時期的に心霊話が盛り上がる季節だ、二人が興味本位で中を確認しにいったら、誰もいなかった。
 メモリーにはしっかり長い黒髪の女性が映っているのに、建物の中には誰もいなかったのだ。
「か、怪談はよそうぜ……」
 人間であったならその顔を青くさせていることだろう、フィールドでの雄姿からは想像もつかない臆病さを持つブルアーマーが震える声で呟く。
「怪談っていうか、さっきあった事実を話しているだけだけどな」
 とブルの姿に苦笑するウインディ。
「というか二人共、それは不法侵入じゃないのか」
 歴とした犯罪だぞとマグナムエースが苦い顔をする。だがトップジョイは笑顔で手を振った。
「大丈夫ねぃ。ちょうどビルのオーナーがいたからちゃんと許可取ったヨ」
「あぁ、最後は三人で気付かなかったことにしようって言って別れた」
「ならいいんだが」
「しかし、あまり霊の姿をわざわざ確認しに行くものではない」
 マグナムの苦言が下がったと思ったら、今度は極十郎太が口を開いた。
「そういう世界に明るくない者が物見遊山で立ち入ってもその場をいたずらに乱すだけ、彼等を冒涜しているも同じことだ。不必要に怒りを買って災いを招いても文句は言えぬ」
「確かに、例えば……仲間達が眠る戦場をお遊び気分で歩かれるのは、あまりいい気分ではないな」
「そっか、そうだよな」
 GZが付け加えるように言った話のリアリティさに目が覚めたのだろう、ウインディもトップジョイもバツの悪そうな顔でうなずいた。
「分かったよ、これから気を付ける」
「ミーも気を付けるよ」
「あの、さ。二人共」
「? どうしたねぃ、シルキー」
 やけに神妙な声で呼びかけてきたシルキーを、ウインディ達は不思議そうな顔で振り返った。
「そういうことは、あまり人に話さない方が、いいよ……」
「そうだな、余計な騒ぎになりかねないだろう」
 マグナムが同意して言う。
「我々は発言力の大きさを自覚すべきだ」
「あぁ、そうだな。言われてみれば確かに」
 理解してウインディはうなずいた。
 知名度を上げてきたシルバーキャッスルの、しかもかつてはダークのトップリーガーだったマッハウインディの証言である。世間が黙っているはずがない。霊も、ビルの管理者も、その身内も、そしているかもしれない霊の関係者も、いらぬ騒動にわずらわされかねない。
 ――だがシルキーは少し困った顔をした。
「それもあるんだけど……」
「?」
「リーガー全員が見えるわけではないのと同じように、人間にも存在を認識できる者とできない者がいる」
「工場長」
 横から現れたのはメッケル工場長だ。
「そして認識できる人間はリーガーほど多くはない。それは分かるな?」
「はい」
 ウインディがうなずく。工場長はそれを確認してある方向に目を向けた。ウインディ達がつられて視線を転じると……楽しく会話をしているルリーとリュウケンの姿が。
「この国では昔、夏のある時期になると亡くなった家族の霊が帰ってくると言われていてな」
「お盆、ですな」
 十郎太が言った。
「そうじゃ。まぁ、分かりやすく言えば供養の一環じゃな。今となっては廃れて久しい習わしじゃが、今でもやっている地域があって、それをTVで紹介していることもある」
「そうか。オーナーの父親」
 マグナムが思い至って呟いた。
「諸々がタイミング悪かったんじゃ。夏になると霊の存在がクローズアップされ、リーガーは人間よりよく見るとピックアップされ、盆には死んだ身内の霊が帰ってくるという情報が与えられる」
「父親を亡くした子供が飛び付かないわけがないですね」
 とブル。
「もちろん本人も現実的ではないと分かってはいたようじゃが、それでもな」
「あの時はホントまいったよ……穴が開いたようなぼんやりした笑顔でリカルドさんの霊が見えないか訊いてくるんだから。なんか、すごい怯んだのを覚えてる」
「で、結局どうしたんだよ?」
 ウインディが尋ねる。
「分からないで通せって事前に監督に言われてたんだ。いると答えて不必要に期待させて、見えぬ亡霊を追いかけられても困るし、かといっていないと言っても更に悲しませるだけだし、曖昧にしておいた方がいい時もあるんだって」
 とシルキーは苦笑い。
「まぁ、さすがに今はもうそんなこと言い出したりせんけどな」
 そう言ってメッケルは肩をすくめる。
「だが! 余計なことはしないに越したことはないんじゃからな。……特にそこの二人」
「イエッサー!」
 睨まれた二人はそろってビシリと敬礼した。



END
実際にはTVで幽霊特集はもうほとんどやらないみたいですけどね(笑)
ホントかどうかは分からないけど割りに合わないとかなんとか。

それはさておき。
実はこの小説を書き始めたのは去年(2010年8月)でした。
それが途中で放置されてたわけなんですが……
描き始めた当初はそんな仰々しいつもりなかったけど、東日本大震災を越えた今となってはなんだか意味深な話になっちゃったなぁ。
亡くなられた方々の御霊が安らかに眠れますことを心よりお祈り申し上げます。
IL−TOP

-Powered by HTML DWARF-