女の子と野暮、再び

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 クリーツおすすめの喫茶店に向かう途中でゴールドアームと会った。
「……」
 途端にアームの顔が引きつったような笑みになる。
「あらゴールドアーム、こんにちは」
 一方のルリーは輝かしいばかりの笑顔だ。
「よぅ、お嬢ちゃん」
 挨拶されては返さないわけにもいかぬ。アームはとりあえず軽く手を上げて応えるが……
「?」
 様子のおかしいアームにクリーツは首をかしげた。しかし問う前にアームがルリーに話しかけるので、タイミングを逸す。
「あー、今日は、その……青いな」
「ぷっ」
 途端にルリーが噴出した。
「はぁ?」
 意味が分からずクリーツは眉をひそめる。何を言ってるんだコイツ。
「ふふふっ……あはははは!」
 アームから謎の形容詞を言われたルリーはとうとう声をあげて笑い始めた。
「それ、ただ服の色言ってるだけじゃない。無理しなくていいわよ」
「……」
 アームは苦虫を噛み潰したような顔をルリーから逸らす。一体二人の間に何があるのだろう、クリーツは困惑顔で双方を交互に見やった。
 いや、待てよ。
「もしかしてゴールドアーム、服を褒めようとしたのか」
「やかましい」
 図星だったようだ。クリーツは不機嫌な顔のアームに睨まれた。
「よりにもよってお前が女性にそんな気遣いをするとは驚きだな。全然なってないが」
「やかましい!」
「ふふっ、いつだったか、乙女心を知った方がいいって言ったことがあって。それ以来、彼なりに気を遣ってくれているんです。……大概的外れですけど、ふふふっ」
 笑いの余韻を引いたまま、ルリーがクリーツに説明をした。
「あぁ、なるほど」
「だいたい、アイアンリーガーにそんなモン分かるわけねぇだろうが」
 不貞腐れた顔でアームが吐き捨てる。
 ――と、そこへ。
「おっ、いたいた。ホントに来てたんだな」
 噂話を聞きつけたのだろう、ゴールドマスクが現れてルリーに声をかけた。
「よう、ルリーオーナー。今日はいつもと違う感じの服装なんだな」
「こんにちは。うん、今日はプライベートでお邪魔させてもらってるし」
「あー、なんか聞いた。親父さんに弁当届けに来たんだって?」
 ルリーは苦笑いを浮かべてうなずいた。
「そうなのよ」
「わざわざ大変だな。それにしても、服装の感じが違うと、やっぱり雰囲気全然違うな」
「そう?」
「あぁ。色もよく見る暖色系じゃなくて青系に統一されてるし、可愛いけど、いつもより落ち着いてて大人びた感じがする。似合ってるよ」
「ありがとう」
「お前、分かるのか」
 クリーツが感心したように言う。
「いや、俺の個人的な意見さ。でも監督は思わないのか?」
「思うよ。互いの立場上、下手に言えないけどな」
 何せ相手は公式チームのオーナーで、片や自分は公式チームの監督なのである。ルリーのことを女性として見る前に一人の地位ある社会人として応対せねば、失礼に当たりかねない。
「ですよね。でも、ありがとうございます」
 いいえ、とクリーツ微笑んだ。
「シルバーの奴等は何も言わないのか?」
 マスクが尋ねる。ルリーは苦笑した。
「そうでもないわよ。いつぞやなんかウエスタンファッションでキメたら、まさかの十郎太にまで不評受けたし……」
「そりゃ意外! 十郎太なんか一番縁遠そうだけど」
「そう思うでしょ? それがヒロシ君達と揃ってすごい複雑そうな顔して。失礼しちゃうわ」
「複雑そうな顔……こんな感じ?」
「そうそう、そんな感じ」
「ぷっ、ゴールドアーム、なんて顔してるんだ」
 クリーツが言ったとおり、アームは複雑そうな顔で弟を見ていた。
「なんで、分かるんだ」
 アームが呻くように呟く。マスクは苦笑した。
「だから分かるわけじゃないって。ただの俺個人の感想だよ」
「だが、いかにアームがスポーツにしか目を向けていないかが分かるな」
 意地悪い笑みを浮かべてクリーツが言う。
「人間もちゃんと観察していれば、ある程度は分かるものなんだが」
「俺はアイアンリーガーだ」
「でも以前あたし『リーガーも人間社会で生きてる』って言ったわよね」
「〜〜〜ッ! だ、だから頑張ってんだろうがよッ」
「分かってるわ。冗談よ。ありがとう」
「む」
 素直に認められ感謝されて、アームは不意を食らった気分になった。妙に気恥ずかしいのは気のせいか。
「あははは、頑張れ兄貴」
「声が棒だぞマスク」
 目を据わらせて末弟を睨むも、涼やかに流される。
「フットは完全に無頓着だろうな」
 この場にいないゴールド三兄弟次男を思い出してクリーツが言った。
「あー、絶対分からないね。分かったら逆にスゲーよ」
「俺がなんだってんだ?」
 噂をすればなんとやら。ゴールドフットも登場である。
「こんにちは、ゴールドフット」
「おう。どうしたんだ、こんな所に」
 フットは偶然通りかかっただけのようだ。噂も耳にしていないらしい。
「お父さんにお弁当を届けに来たの」
「へぇ。そりゃ御苦労なことだな。で、俺がなんだって?」
「うん、実はね」
 そしてルリーはフットの前でくるりと回って見せる。
「どう?」
「何が」
 伝わってない。
「あたしの今日の服装」
「いつもと違うな」
「それだけ? 他に何か感想ない?」
「ねぇよ」
「……」
 ルリーはマスク達に向かって腕を軽く広げ、肩をすくめた。
「だから、なんなんだよ」
 フットが少しだけ苛立たしげな声音で問い直す。
「ファッションセンスの話よ」
「はぁ? そういうのはマスクに聞けよ。興味ねぇ」
「えぇ、だと思った」
 そう答えながら、マスクなら分かると知っているのねと、ルリーはこっそり驚いた。フットは適当なことを言っているような口調ではなかった。
「ここまでくると、逆に潔いな」
 クリーツが苦笑いを浮かべながら言う。
「フット兄貴はこれでいいんだよ」
「なんで俺は駄目なんだ」
 アームが不満そうに言う。
「兄貴にはもう少し広い目を持って欲しいよな」
 とマスク。
「長兄だしな」
 クリーツもうなずく。
「納得いかん……」
「ゴールドアームはあたしに難しいことを言われても、気遣ってくれる余裕があるもの。それはとても素敵なことよ。だから期待しちゃうのよ」
 逆にフットに乙女心うんぬんと説いたって、興味ねぇと一蹴されるのがオチだ。
「……善処する」
 アームはそう言って重々しく息をつく。
 ルリーは微笑んだ。前向きな返答をするアームのヒトの良さを、ルリーは内心で嬉しく思うのだった。



END
ゴールドアームごめん(笑)
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