日和見男の真実

モクジ
 ヤツは監督のクセして何も言わない。
 アームが覚えていることといえば、リーガーに偉そうな態度を取るワリには威圧的に出られると弱いことや、権力にはいつも腰が低かったことくらいか。だたそれは以前の、変わる前のダークにいた時のことで、現在は本当に印象が薄い。
 ――ブラックマンのことだ。
 ダークキングスの監督を決め直す時、ブラックマンでいいと言ったのは確かにアーム達だ。彼なら自分達のプレイに口煩く言わないと思ったから。
 しかしそれにしたって印象が薄い。煩くないと言うより、何も言わない。こちらから何か言っても「あぁ、うん」「そうだな」くらいしか返さない。
 一度、練習中に何をしているのかと盗み見たことがある。
 ただぼーっと練習風景を眺めていた。
 その時は「何やってんだコイツ」と思った。自分達で監督を選んでおいてなんだが、心の底から思った。
 ダークプリンスに戻ってきたクリーツは練習を見て分析し、客観的な視点から的確な指示・助言を出す。しかしブラックマンは見ているだけで何も言わない。
 腹立たしい……というよりは、呆れた。よくダークにクビにされないなと不思議に思った。自分達で監督を選んでおいてなんだが。
「……監督」
「うん?」
 呼びかけると、のんびりした返事と共に振り向く。
「そうやって練習眺めてんのはいいが、何か言うことはないのかよ?」
「何かって?」
「何かって……ここをこうした方がいいとか、やめた方がいいとか」
「いや、ないよ」
 即答。
「……そうかよ。ならいいんだが」
「というか、野球よく知らないし」
「は!?」
 ブラックマンの告白に、アームは素っ頓狂な声をあげた。あまりに似合わぬ声に、少し離れて談笑していた同僚達が何事かと注視する。
 アームは大いに驚いた。シルバーフロンティアに投げた球を打たれまくった時よりも、マグナムエースがシルバーフロンティアだと気付いた時よりも、強制引退を宣告された時よりも、ダークスポーツ財団がリーガーを解放した時よりも、大いに驚いた。人生ならぬ、リーガー生の中で一番の驚きだった。
「ずっとキングスの監督だったじゃねぇか!! それが今更、野球よく知らねぇだ!?」
 めまい。こんなことがあるのかと、めまい。え。ウソ。マジで? あー、やっぱり……と外野。
 ブラックマンは苦笑した。
「ルールは知っているよ。どのポジションにどういう能力が必要なのかも、まぁ、だいたい。でも監督と公言できるほどではないなぁ」
「マジかよ……」
 開いた口が塞がらないとはこの事か。
「だって、今までのダークにそんな能力は必要なかったしね。お前、昔のプレイを野球と断言できるか?」
「ム……」
 言われてみれば確かにそうだ。当時の試合はラフプレイと高性能にモノを言わせた強引なプレイだった。ダークキングスが勝利するお膳立ては既にできていたのだ。それに対して監督が口を出す必要はほとんどなかった。
「それに」
「あん?」
「お前達も未だ自分達のプレイってのを模索中なんだろう? ダークキングスというチームが最高の力を発揮するには、お前達がベストだと思う方法でやるのが一番いいと思ったんだがね」
「……」
 アームはほぅと感心した。この男、何も言わないが一応考えてはいるのだ。
「ワシもお前達を完全に把握しているわけではないから、しばらく観察させてもらってるんだ」
 ワシなりにReSTARTってところさとブラックマンは笑う。
「そうか」
 アームは苦笑いを浮かべた。なかなか面白い監督が就いたもんだ。選んだのは以下略。
「それじゃぁ、任せといてもらおうか」
 将来ダークキングスの優秀な監督になるかもしれない男に、アームは親指を立てて見せた。アームなりにブラックマンという男を認めたつもりのサインだった。
 そうさせてもらうよと、ブラックマンはうなずいた。
「でも、何かできることがあれば、力は惜しまんから」
「あぁ、頼むぜ」



END
2007年10月発行のコピー本『Human form Heart.』より。
リーガーと人間の話は妄想してて楽しいです。
モクジ

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