閑話休題

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 その看護師がふと目を向けると、ちょうど閉まろうとしていた搬入ゲートの隙間に薄紫の姿が見えた。
 まさかと思って病室を覗くと、案の定もぬけの殻。唯一存在感を誇示しているテレビがナショナルチャンピオンシップ第二戦の中継を得意げに流しており、それはシルバーキャッスルの苦戦を説明している。
 看護師は肩をすくめてテレビのスイッチを切り、病室を出た。
「脱走してったわよ」
 ナースセンターに着くなり、ため息まじりに報告する。
「みたいね。ここから見えてる」
 ナースセンターにいた看護師が窓の外を眺めながら言った。彼女の視線の先には8体のアイアンリーガーが、歩いていると言ってもおかしくないペースでよたよたと歩道を走っている。
「あの子達、機械のコード引き千切ってったのよ」
「ホント? いくらすると思ってるのかしら。いじらしくて可愛いけど、抜けてるわよねぇ」
「そこがまた可愛いんだけど。でもどうするの?」
「引き止めたって聞きやしないだろ。放っておきなさい」
 新たに現れたリーグドクターが苦笑しながら窓の外を覗き見る。
「先生」
「機械はコードだけ取り替えればいいだろうし。もちろんその修理代は請求するけど……おや」
 通りすがりの大型の箱トラックがリーガー達の横に止まり、二三言葉を交わしたかと思うと、荷台にリーガー達を乗せ始めた。
「これはいい。体の負担が減るからこちらとしても助かる」
「なんか、ああいう子達って新鮮ねぇ」
 微笑みながら脱走を見かけた看護師が言う。
「昨今は攻撃的なアイアンリーガーが多いからね」
 とドクター。
「応援してあげたくなっちゃいますよね」
「でも帰ってきたら使う説教を考えておかないとな」
「そうですよね。それはそれですよね」



END
長くなりそうな短編を書いている途中に思いついたネタ。
書いてる私が閑話休題(笑)
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