ララバイ FOR YOU

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 今でも鮮明に覚えている。


月が夜を連れてくるよ



 美しいくらいに紅い夕焼け空。


星が夢を彩るよ



 その中に浮かぶリュウケンの白い後姿。


さあ さあ いい子よ 愛しい子



 そよ風のような旋律。


今はゆっくり休みなさい



 そして。


空に抱かれて眠りなさい



 俺の存在に気付いて振り返ったリュウケンが浮かべた、穏やかな微笑み。


大きな大きな太陽が



 ――時が、止まったかと思った。


あなたのほほをなでるまで――






     ララバイ FOR YOU



 ボーシップの中に、低く、静かに流れたぎこちない歌。
「……それはなんだ?」
 ギャレットの不審げな声がGZの聴覚に届く。
 GZは答えなかった。視線は残骸の散乱する戦場後に向けられ、意識は過去の映像を探っている。ギャレットの疑問が頭に入っていないわけではなかったが、現実に戻ってくる気はなかった。
 感傷。この俺が。頭の片隅でもう一人の自分が嘲笑っている。
 だが、浸りたくなる時もあるものだ。
「GZ?」
 ギャレットは返事をしないGZの顔を覗き込んだ。そして、ここではない、何処か遠くを見ているようなGZの目に気付いて困惑した。
 彼はまだ感傷というものをよく分かっていない。見慣れぬGZの姿に、理解できない妙な不安を覚えた。
「……G――」
「子守唄、というのだそうだ」
「コモリ……歌?」
 GZの意識が自分に向けられたことに内心ほっとしながら、ギャレットがオウム返しに尋ねる。
「親が幼子を寝かしつける時に歌う唄のことよ」
 答えたのはシーナ。
「子供はそれを聴くと安心して眠るの。でも……戦場で子守唄なんて、ちょっと皮肉ね。まるでレクイエムだわ」
 そう言って苦笑いを浮かべる。
「レクイエム?」
 ギャレットにはこれも耳慣れ ぬ言葉だ。
「貴方本当にモノを知らないわね」
 まあ、当然なんだけど、と思いながらシーナは肩をすくめる。
「ソルジャーとして必要な知識以外に関してうといのは仕方がない」
 特に腹を立てたりもせず、ギャレットも肯定する。
 シーナが「GZは?」と振ると、GZは呟くように鎮魂歌と答えた。
「チンコン歌?」
「魂が安らかに眠ることを祈って歌う歌」
 ギャレットの更なる疑問にGZは重ねて答える。
 ――実際のところ、GZは鎮魂歌の意 味を込めて口ずさんでいた。
 子供のことはよく知らずとも、死に逝くアイアンソルジャーのことはよく分かっている。自分が歌ったところで効果があるとは思えなかったが、少しでも気休め程度にはなればと思ったのだ。
 ……いや、気休めが欲しかったのは自分か? GZは微かにため息をついた。
「でも、よく知ってたわねGZ。以外だわ」
 シルバーでは一番似合わなそうなのに、とシーナは笑う。
「リュウケンが歌っていた。眠っているベズベズを抱いて」
 窓の外を見つめ、GZが答える。シーナは彼ならと納得してまた笑った。
「……視界を埋め尽くす紅い夕焼け空。その中のリュウケンの後姿。リュウケンが歌う子守唄。振り向いて見せた微笑み……」
 GZは思い描くように目を閉じた。
「時が止まったかと、思った。なんと言えばいいか……とにかく衝撃を受けたのだ」
 あの時の気持ちを言葉でどう表せばいいのかGZには分からない。撃ち抜かれた感じがして……そして何故か叫びだしたくなった。はっきりしているのは、あの歌が、あの光景が、いとおしいと思うこと。
「もしかしたら……俺にはないものを、切望して叶わぬものを、目前に付き付けられて……うらやましかったのかもしれない」
 そして、決して表には出したくない心の弱さを、受け止めてくれそうな気がして、吐き出してしまいたかったのかもしれない。
 どんな境遇にあっても、その心が陰ることはなく。
 ただひたすらに、優しくおだやかな――

『笑顔でね、GZ』

 平穏、平和。
 優しさ、愛情。
 慈しみ、救い。
 与えられる存在になりたいと望む。
 常にあがいてはいるが、報われているのか分からない。
 心優しき空手リーガー……どうしたらそんな風になれる?

「――何故、無いと言い切る」

 突然ギャレットが強い口調で言い放った。
「え……?」
「そうね。厳密に貴方が何をうらやましいと思ったのか分からないけど……持ってると思うわよ。同じモノ」
 GZが意外に思うくらい、シーナもあっさりと断言する。
「そう……だろうか?」
「ええ。たぶんキアイ リュウケンと表れ方が違うのよ。他人の姿って目に付きやすいからね。自分のことは気付きにくいし」
 そういうものなのだろうか。GZはいまいちピンとこない。
「そうでなければ、俺は今ここにいない」
 GZをまっすぐ見つめ、ギャレットが言う。
 少し驚いた顔でしばらくギャレットを見返し――やがてGZは淡く笑みを浮かべた。
「そうか……ありがとう」
 そうであると、いい。
 いずれは、かのリーガーのように。
 平穏と平和。
 優しさ、愛情。
 慈しみ、救い。
 それをもたらすために、俺はこの戦場へ戻ってきた。





 月が夜を連れてくるよ
 星が夢を彩るよ
 さあさあ いい子よ 愛しい子
 今はゆっくり休みなさい
 空に抱かれて眠りなさい
 大きな大きな太陽が
 あなたのほほをなでるまで


 戦場で散った者達よ。
 今はゆっくり休むがいい。
 あの果てしない星が満ちる空に抱かれて、眠るがいい。
 フィールドに差す陽光が、お前達に手を差し伸べるその時まで。
 切に祈り、俺は歌う。



END
子守唄は自作です。頑張りました。
でも私のセンスではこれが限界……精進します(汗)
詞や詩って難しいですね。
ちなみにこの子守唄に曲はありません。勝手に節付けて下さい。
さすがに作曲は無理です。才能ない。
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