ナイトウォーカー
仕事場の片付けを一通り終え、窓から夜景を眺めながら煙草をふかす。
部屋が高い位置にあるせいか、街中のライトが満天の星空のように見える。綺麗なもんだと思わず笑みが浮かんだ。
見下ろすたびに、優越感が心を支配していた――以前までは。
今はない。
ただ純粋に美しいと思う。
そしてそう思う自分に苦笑した。
変わった自分に戸惑いを覚えながら、それでも受け入れたいと願う。いずれは、この自分を誇りに思えるように――
「クリーツ監督」
俺は目を閉じ、夜景を視界から締め出した。そして一声もなく部屋に入ってきていた男を振り返る。
男は手に持っていたジュラルミンケースを机に放り投げた。
「これは、ギロチ様から君への報労金だ……意味は分かってるな?」
「ああ……」
ケースには隙間なく札束が入れられている。結構な額だ。だがダークからすればはした金。
意味は、報労……そして、口止め。
ダークスポーツ財団にはいろいろと裏がある。幹部の一人だった俺の頭ン中には、危険な情報がいっぱいだ。それを外へ漏らすなという、暗黙の金額。
――言いはしないさ。場合によっては命に関わる。それはゴメンだ。
だから了承の意思表示に金を受け取る。
「君は愚か者だ、クリーツ。つまらん情に流され、ダークを追い出されるのだから」
「……そうかもな」
俺の素っ気ない返事に男は鼻で嘲笑い、きびすを返す。
「せいぜい地べたを這いずり回って、無様に生きるがいい」
そう吐き捨てて出ていった。
「地べたを這いずり回って……ね。それもいいな」
一人呟いて再び街を見下ろす。
ここは高すぎる。存在感が強すぎて、本当の星空も見えない。
アイツ等は地に足を付け、生きているんだ。あの、下の星々の中、自らも星となって。
俺もその中へ――ただ、それだけの話。
別に星にならなくてもいい。ここにいるより、よっぽどマシ。目の覚めた人間を無様と言うなら、勝手にほざいていろ。それが俺の選んだ結果だ。
仕事場のライトを消し、数少ない私物を入れたトランクとジュラルミンケースを持って部屋を出る。
誰に見送られることもなく。
これが俺のダークでの最期。上等だ。
さて、これから何処へいこう?
とりあえず、本当の星空が見える所へでも行ってみようか――
END
night walker は「夜間に徘徊する人」とか「夢遊病者」という意味なのですが、
その他に night crawler という意味もあります。ま、つまり、「大ミミズ」ってヤツです。
この小説の場合はもちろん、ミミズで。
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