Party Soul.

リーガーTOP

<準備をしましょう>


 各々ジュースをオイルを片手に乾杯する。一口飲んで盛大な拍手。直前に人数が増えたせいで、パーティー会場はちょっと腹九分目といったところか。今の拍手も実は耳に痛い。
 いるはずのない場所に、いるはずのない人やリーガー達と一緒にいる。不思議な光景。不思議な気分。嬉しくて嬉しくて、興奮しているはずなのに、何故だか妙に冴えている。
 さっきから何か足りないと思うのは、そのせいだ。こんなにたくさん揃っているのに、足りなくて足りなくて仕方がない。……いや、揃っているからこそ足りないものが目立つのだ。
「オーナー、どうしたの?」
 しきりに首を捻って考えているルリーに、リュウケンが小さい声で尋ねた。正面では司会やらナントカ委員会委員長やらナントカ協議会会長とかナントカナントカナントカ長がマイクを握ったままなかなか離そうとしない。まるでカラオケだ。実際は念仏だが。いやいやスピーチよ。
「うん……なんか足りないなと思って……」
 この感じ、話しても果たして伝わるだろうか?
「ダークのオーナーがいないね」
「あ」
 リュウケンとしては彼が足りないと思うものを口にしただけだ。だがルリーの中でパズルがぴたりとはまった。
 そう、敵チームのリーガーやら監督やら関係者やらも、シルバーキャッスルの優勝パーティーに参加しているというのに、トップに立つオーナー・ギロチがいないのだ。
 ああ、でも、参加しにくいかな。
「気まずいのかも」
 ルリーがささやくと、今度はリュウケンが首をかしげた。
「ここにいる皆と何も違わないのに?」
「……そうね」
 貴方は優しいからね、リュウケン。ルリーは心の中でかぶりを振った。いいえ、違うわね。リーガー同士はうまくいっても、人同士はなかなか難しいわ。特にギロチは。
 今まで行なってきた罪の大きさが違う。
 ルリーは自問した。アタシはギロチを許せる? 受け入れられる?
「……これから次第よね……」
 結局そういう結論に達した。ギロチもこれからいろいろ大変なはずだ。だが彼は戦う決意をした。して、そして見せた。期待できる未来の可能性を。
 ルリーの独り言を理解していないリュウケンは、しかし黙ってルリーを見下ろしていた。その彼に微笑みかけ、やはり密かに思った。
 アタシは皆が正々堂々スポーツを楽しめればいい。そしてその為にアタシは精一杯努力をするだけよ。





<騎士な君>


 オーナーが何か考え事をしている。いろんな偉い人の話を聞いていなくていいのだろうかと、リュウケンは心配になった。
「オーナー」
 だがもっと心配なのはオーナーだ。オーナーは何やら深刻な顔で考えている。
「どうしたの?」
 できるだけ他のヒトには聞こえないよう、声のボリュームを落として尋ねる。ルリーは「うん……」と曖昧な返事をし、目線だけで辺りを見た。
「なんか足りないなと思って」
 足りない……そういえばと、リュウケンはずっと気になっていたことをささやいた。
「ダークのオーナーがいないね」
 ダークのリーガーも関係者の人達も皆いるのに、唯一オーナーのギロチだけがいない。
 ルリーはあっと声をあげた。どうやら自分の疑問がオーナーの答になったようだ。良かった。
 でも自分の疑問の解答は出ない。何故ダークのオーナーは出てこないのだろう?
 オーナーは気まずいのかも、と言う。しかしそれは更にリュウケンに疑問を抱かせた。
「ここにいる皆と何も違わないのに?」
 悪いこと、ひどいことをしてきたのは、この場にいるリーガーや人間達だって同じだ。でも今は互いに許し認め合って、共同パーティーとなったのだ。それなのに何故ギロチ一人が遠慮して出てこないのか? 解らない。
 オーナーはそうねと同意してくれたが、声が何処か上の空だ。また考え事を始めてしまった。さっきよりも難しい顔をしている。ダークのオーナーが参加しない理由を考えているのだろうか。
 隣りのブルアーマーに肘でつつかれ、リュウケンはずっとルリーを見下ろしていたことに気が付いた。ここは最前列。少々の脇見や小話はバレないだろうが、長い間はさすがにマズイ。慌てて顔を上げた。
「……これから次第よね……」
 ふとルリーが呟いたので、目線だけで窺う。何がこれからなのか分からなかったが、きっとオーナーのこと、自分には考えもしない難しいことを考えているのだろうと、特に何も言わなかった。
 ルリーが微笑んで見せた。リュウケンの大好きな笑顔。オーナーが笑っていられるのはいいことだ。
 ダークのオーナーのことは未だ分からないけれど、彼もオーナーなのだから、いろいろ考えているんだろう。それこそシルバーの自分には想像もつかないことを。
 とりあえず今は自分達のオーナーが笑っていられるのだから良いことにしよう、とルリーに微笑み返しながらリュウケンは思った。





<さて、もう一頑張り>


 オーナーとリュウケンが何やら話を始めたのには気付いていたが、リュウケンがルリーをしばらく見下ろしているのはさすがにマズイだろうと思い、ブルアーマーは肘でつついた。
 スピーチをしている人間は自分の話に陶酔しきっているし、聞いている側はつまらなそうに早く終わらないかと自分の世界に引き篭もっているので、オーナーとリュウケンの会話には気が付かないだろうが……ここは最前列、マスコミの目もあるので注意するに越したことはない。
 それにしても人間って話が長いなぁとブルは思う。トップジョイなんか「長いヨ……」と周りの者に愚痴をこぼし回っている。全くだ。決勝戦の感想とか昔話とか……おいおい、以前自分が何故ラフプレイにのめり込んでいたか説くなよな。場の空気読めないのか。あーあー、ほらダークからブーイング出てるし。っていうか、ダークの奴等も他人のこと言えた立場じゃないだろ、仕方ないなぁ。こらこらシルキー達、そこで実際にこっそりツッコミ入れなくていいから。
 そうやってブルアーマーもつまらなそうに早く終わらないかと自分の世界に引き篭もっていると、とうとうダークのリーガーから「話が長ぇ!」とクレームが出た。あのドスの効いた声で怒鳴られるのだから、スピーチの人もたじたじだ。ははは、ダークリーガー達のその根性は賞賛に値するよ。でも実際に拍手するなよなシルキー達。
 でも、いいなぁ、この空気。ブルアーマーは思った。
 全力で勝負をして、その後は敵味方関係なくパーティー。ダークのリーガーそのものには特になんの恨みも憎しみも抱いていなかったから、フェアプレイに目覚めてくれたのならそれでいい。罪を憎んで人を憎まずってヤツかな。
 ――人間はそう簡単にはいかないんだろうけど。
 何せ人間は罪の先導をしてきたのだから。気まずいと思うだろうし、もしかしたらダークの顔色を窺っているだけで、相変わらずな者もいるのかもしれないのだ。
 そして、その頂点にいたのがダークのオーナー・ギロチ。パーティー会場に唯一不在の人物。まぁ、そう簡単には馴染めないだろう。
 俺達は……どうなんだろうな。
 ブルアーマーは内心で苦笑した。
 あのダークが本当に変わるのなら、俺達もちゃんと受け入れられるよう変わるのが筋ってモノか。
 マグナムに誘われたあの日から感じている激動の時……もうしばらく続きそうだと、ブルアーマーは笑みを浮かべた。





<わからず屋!!>


 話が長い。もうくたびれた。皆にこっそりそれを訴えるのにも飽きた。早くダークの皆とも楽しく騒ぎたいのに、スピーチするエラそうな人がそれを妨害しようとする。ミーは何も悪いことしてないのに!!
 ……と思ったら助け舟ってヤツが出た。ダークのリーガーが文句を言ったのだ。さすがはダークのリーガーである。強気だ。シルキー達と一緒に小さく拍手を送ってあげた。
 その後のいろいろエラそうな人達の話は嘘のように短かった。「それでは皆様、しばしの後歓談をお楽しみ下さい」と言われた時には飛び上がりそうなほどハッピーだった。……本当に飛び上がろうとしたのだが、GZと十郎太に肩を押さえ付けられてやめた。二人共目がとても怖かった。
 ――さて、気を取り直して、まずはゴールド三兄弟と乾杯してこよう! ……と思ったら、今度はいろんなパーティー参加者に取り囲まれてしまった。いやぁ素晴らしい試合でしたねあなたの活躍にも感動させていただきましたよ特にあの時のジャンピングキャッチ素晴らしかったですねどうですか勝った時の気持ちはやっぱり嬉しかったでしょうねなんせ初の優勝ですもんねなんたらかんたら。
 ああもうウルサイねぃ!! ……ってダークリーガーみたいに言えればいいが、生憎とトップジョイはそんな強気な根性は持ち合わせていない。
 ここはやはり脱出作戦を決行せねばなるまい。さて、どんな方法で抜け出そうか――
「私はね、シルバーキャッスルを信じてたんですよ。シルバーなら絶対奇跡を起こしてくれるって」
 ……白々しい、と思わずにはいられなかった。このトップジョイですら。
「そしてシルバーは期待を裏切らなかった! さすがはシルバーキャッスル。ダークなんか目じゃないですな!」
「そんなことないねぃ!!」
 しん……と場が静まった。腹九分目のパーティー会場全体が。
「あ」
 口を押さえて辺りを見回すが後の祭。全方向から視線が集まっている。
「ソ、ソーリーねぃ」
 ごまかし笑いを浮かべて手を振ってみた。呆れたため息と共に視線が散った。
「あの、ミー、ちょっとトイレ……」
 気まずくなり、トップジョイは自分を取り巻く輪を強引に裂いた。そそくさとドアへと向かう。
『どうしたんだ、トップジョイ』
 マグナムエースが通信回路で尋ねてきた。
「……ダークだって頑張ったし、強くてかっこよかったねぃ」
 前後の経緯を語ることなく、それだけを呟いた。
 友を侮辱されて黙っていられる者など、居はしない。トップジョイにとってダークはもう友なのだ。ギロチだってそれを認めてくれたのに。
『……そうだな』
 静かな同意の声。さすがはマグナム。やっぱりマグナムは分かってくれた。
『大丈夫だ。本当に伝わって欲しい者にはちゃんと伝わっている』
「……そうだねぃ」
 今はそれで満足しよう。ちょっと寂しいけれど。





<裏腹はらり>


 突然響いた叫び。トップジョイの声だ。間もなく彼はホールの外へと消えた。
 何が、そんなことない、のか。トップジョイに逃げられた人間達は現状が理解できずに首をかしげている。
 人間の相手をしながら通信回路でどうしたのか尋ねると、今にも泣き出しそうな声が返ってきた。
『ダークだって頑張ったし、強くてかっこよかったねぃ』
 なにがどうしたのかは説明してもらえなかったが、大よその見当はついた。
 シルバーを持ち上げようとした取り巻きに、ダークを否定するようなことを言われたのだろう。それで思わず叫んでしまったのだ。ダークの御機嫌窺いに慣れている者は、強者に媚びへつらい、弱者をけなす習慣からそう簡単に抜け出せない。マグナムは内心で苦笑しながらそうだなと同意した。
 あの決勝戦がどれほど素晴らしい試合だったか、解る者には解る。あのギロチですら、心を動かされたらしいのだから。しかし、解らない者には解らない。果たしてこの会場のどれほどが解っているのだろうか。
 ――ギロチ。会場には姿を見せなかった。今頃何処で何を考えているのやら。
 優勝パレードでの宣言には驚かされた。大半の見物客にはなんのことか分からなかっただろうが、真実を知る者にとっては天地が引っくり返る程の大宣言だ。
 全てのダークのリーガーは自由になる――大衆の面前で宣言することにより、現存のリーガーはもちろん、これから生まれてくるリーガーも、そして何より過去からの因縁を引きずっていた自分を、嘘偽りなく解放した。
 ……した、のだと思う。マグナムはまだ信じきれないでいる。本当にもう、ダークからは誰も戦場へ行くことはないのだろうか? あのギロチが、それを決断した――?
「……大丈夫だ。本当に伝わって欲しい者にはちゃんと伝わっている」
 トップジョイにはそう言っておいた。本当にそうなのかは分からない。本当に伝わって欲しい者とは、何処から何処までなのか、その中にギロチは入っているのか……
 今回の優勝は、目的の完遂を表したものではない。いずれにしても、ギロチの改心だけでは足りないのだ。トップジョイに告げた言葉は、今はまだマグナムの願望でしかなかった。
『サンキューねぃ、マグナム。ミー、ちょっと元気出たよ』
『だったらさっさと戻って来い。一人だけ抜け出すなんて許されるとでも思ってんのか』
『オゥ、ウインディ。そんな怒っちゃダメよ。今戻るねぃ』
 ああ、でもとりあえずこの場は平和だ。ダークのリーガー達もシルバー同様、人の輪に困らせられている。いい光景だと思った。





<とりあえずサッカー>


 人間という存在にはしばしば困らせられる。ヒーローとお近付きになりたいという心理は解らないでもないが、意思が一貫してはいないし、場の空気も読まない。どうやらトップジョイはその被害を受けてしまったようだ。哀れ……だが、修行がまだまだ足りないな。
『サンキューねぃ、マグナム。ミー、ちょっと元気出たよ』
「だったらさっさと戻って来い。一人だけ抜け出すなんて許されるとでも思ってんのか」
 自分だっていろいろ言われている。それこそダークにいた時から言われ続けてきた。だがそれにいちいち反論していたってキリがない。マグナムの言う通り、伝わって欲しい奴には伝わっているのだから、そんな下っ端の発言なんか放っておけばいい。
 ダークのリーガーがフェアプレイに目覚めた。ダークのオーナー・ギロチも改心した。これでアイアンリーグは大きく変わるだろう。もちろん全てってワケにはいかないだろうが、それでもかなりの進歩だ。小物の改心はギロチに任せるとしよう。俺はただ、俺のサッカーを披露するだけさ。結果、誰かの心を動かすことができれば、それに越したことはない。
「……ギロチは出てこないんだな」
 先ほどから率先して質問責めをしてくるジョージィ=アイランドに尋ねた。
 質問はウザイが、馴染みの顔が側にあるのはいいことだ。気がいくらか楽になる。
「やっぱり気になりますか?」
 苦笑しながらジョージィが言う。
「公式な発表は何も。ただ、いないことを追究しないのは暗黙の了解となってます」
「ふーん……」
「たぶん、気まずいんだと思いますよ。今まで散々シルバーを苦しめてきましたし」
 なるほどなとウインディは思った。でもギロチがこの場にいれば、この自分勝手な人の波をどうにかしてもらえたかもしれないのにと内心ため息をつく。さっきの長いスピーチだって同様に。
 だが仕方ない。
「まだ質問あるか?」
 極力感情を出さないように努めたが、この質問そのものが既にもう勘弁してくれと主張しているようなものだ。ジョージィは「えぇーっ」と残念そうな声をあげた。
「悪いな。十郎太貸すからよ」
「何!?」
 人の輪からそれとなく逃げ回っていた通りすがりの十郎太をふん捕まえて、ウインディは鮮やかなほどあっさりとその場から逃げた。
『ウインディ!!』
「たまにはちゃんと相手してやれ!」
 いっつも俺やマグナムに任せて逃げやがって。あばよ!





<ああ、無常>


 形式的なインタビューをいくつか受け、十郎太は早々に解放してもらった。元々取っ付きにくい印象の十郎太やGZなんかは、ありがたいことにウインディの言う人災にはあまり困らせられていない。
「……あれは」
 ホールから抜け出し廊下に立つと、リカルドの姿があった。
 と同時に、十郎太が出てきた方とは別の扉が閉じるのを見かける。
 振り向いたリカルドに軽く頭を下げると、リカルドは「とうとう逃げ出してきたのか」と笑った。
「リカルド殿、それは?」
 逃げ出してきたのは事実なので特に何も答えず、リカルドが肩に担いでいる酒瓶のことを尋ねた。
 瓶にはレースのついたリボンが結ばれている。見覚えがあった。
「ルリーがギロチに持っていけってな」
 そうだ、このリボンは先ほどまでルリーの首に巻かれていた。確かチョーカーという物だ。
「オーナーがギロチに」
 真っ先に思い浮かんだ言葉が“敵に塩を送る”だった。だがよく考えてみると、シルバーとダークはもはや敵同士ではない。……一応のところは。
「ルリーなりにシルバーとダークの関係を考えたらしい。それで」
「そうでしたか」
 十郎太は納得した。“一応のところは”の“一応”という部分が、シルバーとダークにとって肝要だったのだ。
「考えずにはいられないだろう。ギロチのことは、フェアプレイがどうのという次元を超えているからな。マグナムエースなんかは、完全に信用してはいないようだ」
 それもそうだろう。リーガーは、人間からすれば物同然であっても、リーガー自身には人間と同じように心があり、蔑ろにされれば傷となる。ギロチは今までそれを平気で行ってきたのだ。ダークリーガーはその一番の犠牲者で、かつてダークにいたマグナムエースも例外ではない。そしてシルバーは真っ向からダークの表と裏に挑んできたのだ。
 そんなシルバーキャッスルのオーナーが、リーガーのことを一番に気にかけるあのオーナーが、考えないわけがない。
「十郎太、お前はどう思う?」
 問われ、十郎太も考えてみた。他者がどう思っているのか、これからどうなるのか考えはしたが、自分がどう思うのかは考えたことがなかった。
「某は」
「まぁ、別に言う必要はない。お前が考えているのであれば、それでいい」
 そう言い、リカルドはじゃぁなと去っていった。
「……」
 パーティーの喧騒を遠くに聞き、十郎太は心静かに思いを巡らせた。皆、それぞれが、考えていることだろう。ダークのことと、未来のことを。
 ……この期に及んで、考える事は他者のこと。客観的に見た未来。これはどういうことかと、苦笑いが浮かんだ。
 ちょうどそこへGZが現れ、不審なものを見るような目で見られるのだった。





<誰よりも不器用なんです>


 GZがパーティーホールの人波から逃れようと廊下に出たら、十郎太が何やら一人で笑っている。一体何事かと思ったら、ダークと、変わるであろう未来のことを考えていたと説明された。
「だが自分がどう思うかよりも、他の者がどう思っているのかと考えてしまう」
「ああ、なるほど」
 それがおかしくて笑っていたのかと納得。
 しかし、それにしても――
「ダークと、未来……か」
 確かにギロチの決断は凄かった。
「だが、来るべき時が来た、という印象だな、俺は」
「そうなのか」
「ああ。俺は生粋のダークのソルジャーだったからな。底から順々に段階を踏んでいるためか、まぁそうなってもおかしくはない展開に見えた」
「ほう」
「そして未来は……同じように順々に段階を経ていくのだろうと思う」
「なるほどな」
 納得してうなずいた十郎太に、GZは淡く微笑んで見せた。
「未来のことを考えるのは、お前には似合わないな」
「似合わない、とは?」
 心外なことを言われて十郎太は訝しむ。
「移ろいゆく時の流れを自然体で感じているように見える。その中で自分が成長する機会を窺い、見つけた壁に立ち向かっているイメージがあるのだ」
「……それではまるで何も考えていないようではないか」
「ム……」
 GZは十郎太を評価しているのだが、どうやら巧く伝わらないらしい。なんと言ったら自分の考えを解ってもらえるか、GZはしばし思案した。
 しかし考えれば考えるほど、思考はこんがらがる。
「……言葉というものは難しいな……」
 最終的にはそれしか言えなかった。
 申し訳なさそうに呟くGZに、十郎太は自分が申し訳なくなったようだ。
「いや……よい。某が未熟なのだ。お主の言葉、よく考えてみようと思う」
「すまん……」
 ぽつりと落とされた言葉を最後に、二人の間には微妙な沈黙がわだかまる。
 ――扉が開き、陽気な歌声が聴こえてきた。
「ん? 何やってるんだ二人共」
 現れたのはエドモンドとメッケルだった。歌声の主はべろんべろんに酔っているメッケルの方だ。そんな彼を支えるようにしてエドモンドが立っている。
「引率二人が脱走かぁ!?」
 ろれつの回らない口でメッケルが言った。
「引率……?」
「そうじゃ! シルバーの問題児の引率!! まぁ、ワシからすればお前達も言うことの聞かないガキだがなヒック」
「は、いや、あの……」
「すまん……」
 酔っ払いの妙なテンションと迫力に、十郎太とGZは思わず頭を下げていた。
「まったくだ! 本当にもう……ぐ――――」
 ……寝てしまった。やれやれとエドモンドが息をつく。
「ちょっと休憩室に行ってくるから、しばらく頼む」
 そう言ってエドモンドは苦笑いを残して去っていった。
「……ああ、そうか」
 ふと、GZは思い至った。
「何だ?」
「ああいう感じだ、お前は」
「? 工場長?」
「違う。監督の方だ」
「……?」
「ム……」
 伝わらなかった。
「まぁ、いい。この話はまた今度にしよう。それよりも、リカルドさんも工場長も監督もいなくなってしまったということは」
「……暴走を止める者がいないということであろうな」
 GZの言葉に十郎太は苦い顔でうなずく。トップジョイの暴走はシルキー達に飛び火しやすく、ウインディはしっかりしているようで実はお祭男、シルバーの理性に見えるマグナムはしかし、生温かい眼差しで見守っているに決まっているし、リュウケンは暴走に関して深く考えていないだろう。オーナーとブルだけでは明らかに力不足で、しかもオーナーすら巻き込まれかねないリスク付。パーティー会場という性質上、ダークのリーガーはアテになりそうもないし、触らぬ神に祟りなし、とばっちりは御免こうむりそうなファイター兄弟も期待できない。
「仕方ない。戻るか」
 互いに苦笑し合い、二人はパーティーホールへ――ある意味での戦場へと、戻っていった。










 ワールドツアー終了からしばらくたったある日、ルリーのチョーカーはオーナー会議の案内状を携えて戻ってくる――





END
平成19年9月発行コピー本『Party Soul.』より。
GZが長くなってしまったのは会話の量が多かったのと、愛の差です(笑)
リーガーTOP

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