過失

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 ガンアームの銃口がコンボイを捕らえた。しかも、ほぼゼロ距離でだ。
「!」
 思いがけず始まった、レーザーウェーブとコンボイの一騎打ち。観客はいない。タイミングという時の気まぐれにより、双方の戦士達は居合わせなかったのだ。もう少し時間がたてば両者出揃うだろうが、今はまだ二人だけであった。
 そうして闘いは、今度はなんの気まぐれだろう、まさにレーザーウェーブに軍配を上げようとしていたのである。
 ――しかし。
「……」
 折角の好機に、レーザーウェーブは動かなかった。意図があったのではない。完全に停滞したのだ。
 その隙をコンボイは見逃さなかった。彼はすぐに手で銃口を払い除け、タックル。
「がッ!」
 かわす間もなく、まともに攻撃を受けたレーザーウェーブは勢い良く吹き飛ばされ、後方の建造物に叩きつけられた。
 コンボイは格納していたライフルを手にし、レーザーウェーブに照準を定めながら間を詰める。衝撃により身体機能が一時的に麻痺したレーザーウェーブは避けられない。
「何故、撃たなかった?」
 今度はコンボイがほぼゼロ距離で敵を捕らえ、問うた。もしレーザーウェーブが間髪入れずにコンボイを攻撃していたら、彼は深刻なダメージを受けていただろう。……いや、レーザーウェーブの攻撃力を考えれば、死んだとておかしくない。
 しかし、レーザーウェーブは攻撃しなかった。
「レーザーウェーブ」
「……貴様こそ、何故撃たぬ。余計なことに意識を取られて機を逃せば、後で痛い目を見るかもしれんぞ」
「今のお前のようにか」
「……」
 今のレーザーウェーブに突き付けられた銃口を払うことはできない。紫の機体をまっすぐ見据えるコンボイに先のレーザーウェーブのような隙はないし、シャットダウンした回路は未だ復旧せず、体が思うように動かぬのだ。
 形勢逆転、レーザーウェーブは窮地に立たされていた。
「撃つならさっさと撃て。撃たぬなら退け」
 それでもレーザーウェーブは臆せずコンボイを見返して言う。逃れる算段があるからか、それとも死を恐れていないのか、コンボイには分からない。コンボイはしばしレーザーウェーブを見つめ――内心で呆れたようにため息をつき、トリガーを握る指に力を込めた。
 その時。
「むッ」
 建造群の間からコンドルが現れ、コンボイに光弾の洗礼を与えた。不意を突かれたコンボイは、雨のように降り注ぐそれらをまともに浴びてその場から弾き飛ばされた。途端に危地から解放されたレーザーウェーブが態勢を立て直し、レーザー砲にトランスフォームして追撃をかける。コンボイは地面を転がって間一髪でかわした。
 2対1、いささか分が悪い。コンボイは戦闘にこだわることはせず、トレーラーにトランスフォームしてその場を離脱した。コンドルは追わなかった。追えばサイバトロンの陣地付近で狙撃されると分かっている。



 上げた腕にコンドルが止まった。
「助かった」
 優秀な空中攻撃兵に短く礼を言う。するとコンドルは一度だけ鋼鉄の翼を羽ばたかせた。
「……それもそうだな。お前の主の抜かりなさには頭が下がる」
 自分は主サウンドウェーブの指示に従って動いたに過ぎない、それを訴えたカセットロンにレーザーウェーブは言葉を換えた。――僅かばかりの皮肉を込めて。
 すると通信でサウンドウェーブが返した。
『貸しておく』
「また盗み聞きか。相変わらずいい趣味だな」
 おそらくサウンドウェーブはコンドルを経由してレーザーウェーブの状況を観察しているのだ。そういう狡猾さがサウンドウェーブの抜かりのなさに繋がるのだが、正直あまり心地良いものでもない。
 とは言え、実は今回その抜かりなさを当てにしていたので、そうそう非難できないのが正直なところなのだが。更に言えばサウンドウェーブは当てにされていることを知っていて動いたのだし、レーザーウェーブも借りを作ることになると分かっていて頼っているので、尚のこと強く言えぬのだった。
『貸しに上乗せするが』
「前言撤回しよう」
 そしてレーザーウェーブはため息をついた。
「いつから観ていた」
『お前は撃つべきだった』
 サウンドウェーブはレーザーウェーブが本当は何を尋ねたいのか瞬時に気付いた。ゆえにその答えを返す。
 やはり嫌なところもしっかり見られていたか。レーザーウェーブは頭を振った。サウンドウェーブの発言を否定したのではない。先の己の行動を否定しているのだ。
「あぁ、そうだな」
 何せ相手はメガトロンの最大の障害であるサイバトロン司令官なのである。コンボイを黙らせることができれば、戦況はデストロンにとって有利な方向に大きく進んだかもしれない。それなのに……愚かなことをしたと、レーザーウェーブは自責した。
 本当に愚かなことだ――“ここでコンボイを始末してしまったら、メガトロン様が悔やまれるかもしれない”などと考え、躊躇してしまうとは。メガトロンの目的は、そしてデストロンの総意は、決してコンボイを倒すことではないというのに。
 確かに、もはや自分の手でコンボイを破壊することができないと知れば、メガトロンは憤るかもしれない。だがそれも一時のことであろう。広い目で未来を見据えれば、賢明な破壊大帝のこと、その有益性にすぐ気付くはずである。
 ゆえにレーザーウェーブはためらうべきではなかったのだが。
『貸しておく』
 再びサウンドウェーブが言った。まるで釘を刺すように。
「誰にも言わないから、か?」
 サウンドウェーブが何故そこまで恩着せがましく言っているのか分からず、レーザーウェーブは訊き返した。自身の犯した過ちをあえて隠そうという姑息な考えは抱いていないのだが。
 微かにサウンドウェーブが息をついたような気がした。呆れている?
『やはり解っていない。後に軍団が不利な状況に落ちれば、お前への不信に繋がる』
「そうだな」
 それはもっともなことなので、とりあえずうなずく。とはいえ、己の過ちにより信頼を失うなら甘んじて受けようと思っているので、やはりサウンドウェーブが言いたいことが分からない。
『お前自身は気にしなくても、お前が防衛参謀として手腕を揮えなくなれば、それは軍団にとって大きな損失になる』
「そう、だろうか」
『過ぎた謙遜は罪だ。お前はもっと現実を知る必要がある』
「あぁ、なるほど。そういうことか」
 やっと理解した。サウンドウェーブはレーザーウェーブの過失を隠蔽してやろうとしているのではなく、おかしな過ちを犯す前にわざわざ忠告をしてやっているのだ。
 本来なら、諭されずとも気付かなければならぬことである。自分で気付けなければ、後に同じ過ちを繰り返すことになりかねない。デストロンが不利になればサウンドウェーブにとっても不都合であろうが、レーザーウェーブとて御免被りたい。だから“貸し”なのだ。
『メガトロン様に報告する必要もない。メガトロン様とお前の間にいらぬ波紋が立てば、後にデストロン全体にとって不都合な状況を引き起こす恐れがある』
 当事者はリーダーと防衛参謀である。軍団への影響力は計り知れない。
「もっともだ」
『今は忘れろ。次に同じことを繰り返すな』
「あぁ、分かった。……気を遣わせた。すまないな」
『期待している』
「それは怖いが、仕方ないな」
 レーザーウェーブは小さく笑った。
『作戦終了。至急帰還セヨ』
「Yes, sir.」



END
なーんてことがあったら面白いかも、という妄想でした(またか)
この後でデストロンが危機に陥った時に自己嫌悪する光波さんもときめくし、すっぱり割り切ってしまう光波さんもカッコイイですね。

どういう経緯で光波さんとコンボイが闘うことになったかは論点と全く関係ないのでカットしました。
適当に脳内で補完して下さい(笑)



お蔵入りにした別バージョン。
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