報われない話

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 くそ、とスタースクリームが壁を蹴った。壊す意図は全くなく、ただの八つ当たりである。コンバットロン達に放り込まれた部屋は、囚人達に脱走されぬよう特別に作られたデストロン御自慢の牢獄なのだ。壊そうとするだけ無駄、費やす労力がもったいない。――実験済みである。過去メガトロンへの反逆行為を咎められ、投獄された時に。
「レーザーウェーブ!」
 次の標的は一緒に閉じ込められた単眼のトランスフォーマーだ。びしりと指を突き付け、声を張り上げる。
「お前が俺の計画に協力しないからこうなったんだぞ! 素直に言うこと聞いてりゃ、今頃」
「俺の主人はメガトロン様だけだ」
 レーザーウェーブは内心うんざりしながら言った。何度同じ話を聞き、何度同じことを言えばいいのか。コイツは400万年たっても何も変わっていない。……あぁ、コイツには400万年など存在しないんだったか。再び主達と通信できるようになった直後こそ、懐かしさゆえに微笑ましく思っていたレーザーウェーブだったが、この状況下ではそうも言っていられない。
「だいたい、なんでそんなにメガトロンにこだわるんだよ」
「メガトロン“様”だ、スタースクリーム」
 聞く耳持たぬだろうなと思いながらも、一応咎める。
「あんなの、メガトロンでいいんだよ!」
 やはり聞かなかった。しかも“あんなの”呼ばわりときた。だが次はレーザーウェーブも聞き流した。こうなったスタースクリーム相手ではキリがないのだ。気にするだけエネルギーの無駄である。
「どんなに尽くしたって、どうせ報われないってぇのによ」
「何故そう思う」
「だってそうだろ! あの老いぼれ、何百年たったって一向にサイバトロン共をやっつけられねぇじゃねぇか。しかも地球で戦うようになってからは、苦汁をなめさせられるばっかりだ! 奴がリーダーであり続ける限り、状況は変わらないぜ」
 あぁ、いつものニューリーダー理論か、とレーザーウェーブは内心で息をついた。そんなことを知る由もないスタースクリームは憤慨一転、得意げな顔になって大したこともない講釈を垂れ始める。
「だが俺様は違う。俺様の頭脳と実力さえあれば、サイバトロン共もエネルギーの問題もすぐに解決だ。……いつも誰かしら邪魔をするから成功しねぇんだよ」
 最後は恨みがましく吐き捨てた。先程レーザーウェーブが協力しなかったことを責めているのだ。レーザーウェーブは聞かなかったことにした。
「レーザーウェーブ、俺ならお前の忠誠に報いてやれる。メガトロンなんかやめて俺様に付け」
「……」
 スタースクリームの話には反論したい部分がいろいろあった。だがそれでこの自称ニューリーダーが納得するとは思えなかったし、今のセイバートロン星の状況を考えれば議論している場合でもないのだ。――とはいえ、何ができるというわけでもないのだが。
 とりあえず、後のことを考えてエネルギーの節約には努めておこうか。エネルギー不足に苦しんだ400万年の後期で得た教訓は活かさなければ。
 だからスタースクリームにはこれだけを返した。
「お前がもしデストロン軍の新しいリーダーになったその時は、考える」
「……」
 スタースクリームは舌打ちした。腕を組み、レーザーウェーブに背を向ける。
 しかし。
「……忘れんなよ」
 あの頑なな防衛参謀が見せた柔軟さにとりあえず満足し、以降口を閉ざした。たとえその場しのぎの答えだったとしても、実際に自分がリーダーになれば否応なしに考えなければならないのだ。そして、デストロンのことを思えば協力せざるを得なくなる。だからスタースクリームは、この場では、その返答で納得して引き下がったのだった。
 もっともレーザーウェーブからすれば今更な話で、スタースクリームが思うほど意識してはいないのだが。もしものことなど、リーダー不在の400万年の間に考えなかったわけがないのだから。
 ――それに、とレーザーウェーブは思う。
 報われるか否かという話をするならば、元々そんなものを求めて忠誠を捧げているわけではないし、そもそもメガトロンに服従すると決めた時点で、報労など望める立場ではないのだ。
 何故なら、メガトロンが宇宙を掌握した暁には、大半のデストロン兵が処分されるだろうから。
 知っている者は実のところそれほど多くない――破壊大帝の望みが『Peace through tyranny−専制/圧制による平和−』なのだということを。方法はともかく、現デストロンのリーダーが求めているのは平和なのである。
 しかしデストロン軍には、戦争兵器という本質に基づき、戦いの中に己の存在意義を見出すものが多い。平和に反し、常に闘争を欲する彼等は、最終的に治世を敷く弊害となりかねぬのだ。
 ゆえに、平和が専制/圧制によるものならば、彼等は粛清されなければならなくなる。――自分も含めて。
 政にも能力を発揮するサウンドウェーブや、元々デストロンには珍しく非好戦的な性格のサンダークラッカー辺りなら除外されようが、戦のスリルを求めて参戦したスタースクリームや、結局はレーザー砲という戦争兵器でしかない自分など、真っ先に粛清の対象となるだろう――やはりメガトロン様の野望のために戦えるのは嬉しいのだ!
 だから、報われるか否かという話をするならば、それ以前にそんなものは従う相手を替える判断材料になどなりえないし、愚劣もいいところである。
「……」
 スタースクリーム、と呼びかけようとして、やめた。
 お前はメガトロン様の本当の望みを知っているか?
 お前はデストロン軍を使って何をするつもりだ?
 お前が最終的に求めるものはなんだ?
 ――どれも不粋な問い掛けである。それこそ愚劣というものだ。
 だってそうだろう? 白き雄姿が思い浮かぶ――明確な指標が存在しているのだから。
 自分はただ、求められるままに役目を全うすればいい。



END
「Peace through tyranny」を見て私がそう思った(笑)
tyranny=圧制もしくは専制、どちらの意味なのか汲み取りかねたので、文中のような表記をさせて戴きました。
本題とはあまり関係がないので、さらりと流してもらえれば幸いです。

ちなみに報いといえば。
私は2010は未見なのですが、PS2ゲームとWikipediaを見る限り、同じ忠臣でもサイクロナスは報われたくて頑張っている子で、メガ様のために働くことそのものが目的なのが光波なんじゃないかと(この言い方はちょっと語弊があるかも/汗)ちらと思ってみたり。
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