追及、若干の

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 デストロンのリーガーがメガトロンからスタースクリームに代わっても、レーザーウェーブは所定の場所にいた。
 司令室のモニター前に座ってセイバートロン星の各所を監視し、また各地区のガードロボから上がる報告に目を通す。新リーダーから特別の命令がない限り、彼のやることに変わりはない。ちなみにスタースクリームといえば、戴冠式の準備がどうのと言いながら自室と大広間を行ったり来たりしている。しばらくレーザーウェーブの出番はなさそうだった。
「俺を責めないのか?」
 黙々と職務をこなす防衛参謀に、現れたサウンドウェーブが突然尋ねた。
「なんの話だ?」
 振り返ることなくレーザーウェーブが聞き返す。
「スタースクリームがメガトロン様を宇宙へ追放するのを、俺が止めなかったことについてだ」
「答える必要があるか? 暇なのか、お前」
「若干、時間が空いた」
「ならば少し手伝え」
「断る」
「……」
 レーザーウェーブは一瞬だけ動きを止めたが、すぐにモニターに映る報告書のページをめくる。
「質問したのだから答えろ」
「訊かずとも俺がなんと答えるか想像つくだろう? 分かっている内容をいちいち確認するのか。本当に暇なんだな」
「若干、ダ」
「若干、な」
 ここでやっとレーザーウェーブはサウンドウェーブを振り返った。
「自分の身を危険にさらしてまでメガトロン様に固執するヤツではないだろう、お前。あの状況下では特に。責めるなど、お門違いもいいところだ」
「それでも思わなかったのか。何故助けなかったかと」
「それは感情論だな。期待できぬものを当てにする方が間違っている」
 それとも、とレーザーウェーブは声に笑いを含ませて言葉を続ける。
「珍しく殊勝にも責めて欲しかったのか。または慰めが欲しいのか?」
「それはない」サウンドウェーブは即答した。「現状が最善だ」
 己の確固たる信念から来る言葉でもあるが、本当の意味は別の所にある。
「あぁ、俺もそう思うよ」そう答えるレーザーウェーブも正しく理解していた。「現状以外にありえないのだからな」
 事前に未来の可能性が数多あろうと、現実に起こる事象はたった一つ。ゆえにそれこそが最善であり、最善でしかありえない。それしかないのだから、端から比べようもない。
 起こった現実は新たに他の何ものになり得ず、そこから伸びる以外に道はないのだから、これから二人がしなければならないのは、あらゆる可能性の中からたった一つの最善を引き寄せるために、先のことを考え進むことだけだ。
「気は済んだか?」
 おそらく全てサウンドウェーブの想像した通りの会話を繰り広げただろう。サウンドウェーブが予測をあえて現実にしようなどと、暇潰し以外の何物でもないのだ。何故なら筋書き通りという優越感を楽しむだけの行為なのだから。
「お前なら、どうした」
 気が済んでいないらしい。サウンドウェーブは更に問う。まだ続くのか。レーザーウェーブは息をついた。まったく性格悪い。
「それは無駄な仮定だぞ、サウンドウェーブ。もし突撃部隊に俺が参加していたら、状況はまた大きく異なっていたかもしれないんだからな。……お前、本当に暇なら少しくらい手伝え。俺の仕事は相変わらずなんだが」
「断る。そろそろスタースクリームが戴冠式の準備を終える」
「……本当に暇潰しの為に邪魔しに来たんだな……」
 呆れたようにため息をつき、レーザーウェーブはモニターに向き直った。中断していた報告書の文章に再び目を落とす。
「少しは殊勝になれば良かったか」
 僅かばかりからかう声音でサウンドウェーブが言う。
「気味が悪いから遠慮しよう」
 レーザーウェーブは即行で辞退した。
「これでも不安がないわけではない」
 これは本心だ。しかしレーザーウェーブは肩をすくめる。
「それでもお前にとって些細なことだ」
 レーザーウェーブが見抜いた通り、実際かのサウンドウェーブが惑う程に重い不安ではない。
「お前は不安なのか」
 『お前にとっては』という言葉を受け、サウンドウェーブが問うた。
「不安というよりは、若干の心配と言った方が正しい」
「若干の、か」
「あぁ。若干の、だ」
「それは俺の知ったことではない」
「だろうとも」
 サウンドウェーブを薄情と罵るのは愚かなことだ。彼はそういうトランスフォーマーなのである。だからレーザーウェーブも肩をすくめるに留めた。サウンドウェーブとの付き合いは決して短くない。
 ――スタースクリームによる基地内放送がかかった。大広間への集合を命じていた。
「さて、行くか」
 ちょうど報告書を読み終えたレーザーウェーブがコンソール前から立った。歩き出した彼の後にサウンドウェーブが続く。
「……メガトロン様は、どう思っただろうか」
 サウンドウェーブがぽつりと呟く。本心はそこにあったかとレーザーウェーブは内心で苦笑した。自身を犠牲にしてまで弱体化したメガトロンに固執しなかったものの、それでもサウンドウェーブは彼なりに心を以ってメガトロンに付き従っていたのだ。
「冷静に考えることができれば、理解して下さるだろう」
 慰めではなく、事実である。
「だろうな」
 サウンドウェーブもうなずいた。そして、メガトロンが感情的になることもあると、知っている。
 レーザーウェーブと違い、メガトロンは読みにくいところがあった。さて、宇宙に放り出された満身創痍のメガトロンは、サウンドウェーブをどう思っただろうか。



END
感情(表現)が乏しいキャラの感情を語るのって、難しいけど楽しい。
いつかはサウンドウェーブの心理というか感情描写をじっくり長々してみたいものです。
心理描写大好き。

……読みにくい?
知らないね!(ぇ
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