wave-shock

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 思いがけず訪れた好機を、スタースクリームが見逃すはずもない。コンボイとの一騎打ちでボロボロになったメガトロンを宇宙へ放逐、新リーダーを巡って始まったバトルロワイヤルにも勝利、長い間――本当に永い間――狙い続けてきた念願の座を手に入れた今、スタースクリームはすこぶる気分が良かった。
 だが、だがまだだ。喜びの雄叫びをあげそうになる己の心をなだめつける。そう、なにせ最後の一仕事が残っているのだ。
 デストロンが防衛参謀レーザーウェーブをひざまずかせる、という仕事が。
「メガトロン様はどうした? それに他の仲間達は」
 地球から帰還したメンバーを見回し、レーザーウェーブが尋ねた。想像通りの質問をしてきた単眼にスタースクリームは内心で笑う。なんて単純、分かりやすい奴。いつも一言目からメガトロン様メガトロン様とやかましいったらありゃしねぇ。
 あぁ、でも。
「メガトロンは死んだ」
 もう奴はいない。スタースクリームははっきりと告げた。
「まさか、そんな」
「本当さ。俺“達”の目の前で、奴は宇宙空間の彼方に消えていったんだ」
 なぁ? とスタースクリームは仲間――いや、部下達を振り返る。彼の後ろに並んでいたアストロトレイン達は何も言わなかった。……否定の色も見せない。
 レーザーウェーブは古き同志に目を向けた。
「……」
 サウンドウェーブも無機質な赤を返すのみ。だがそれでレーザーウェーブは悟ったらしかった。単眼の顔を伏せ、やがて呟く。
「そうか」
 スタースクリームはおや? と思った。落とされた声音があまりにも平静だったからだ。動揺し、嘆き悲しむなら笑ってやろうと思っていた。刃向かうならば叩き伏せてやろうと思っていた。しかし。
「これからは俺がデストロン軍団のリーダーだ。コイツ等は既に俺を認めた。あとはお前だけだ、レーザーウェーブ。これからは俺様に忠誠を近い、俺様のために働け」
「承知いたしました、スタースクリーム様」
 レーザーウェーブは平然とスタースクリームに頭を垂れたのだった。
 素直に従うならそれに越したことはない。だがいささか拍子抜けなのも否めない。外野も予想外の光景に言葉を失っているようだった。
 だが、まぁいい。
「いい心掛けだレーザーウェーブ」
 覆すことのできない現実を前に、嘆きも足掻きも無駄だと瞬時に気付いたのだろう。防衛参謀という肩書きは伊達ではなかったということだ。
 それならそれで好都合である。そういう手駒を手に入れたということなのだから。スタースクリームは最後の仕事を無事達成できたことに満足し、上機嫌で歩き出した。
 さて、これから舞台作りをしなければならない。デストロン軍ニューリーダー:スタースクリーム様の栄光の物語のための舞台作りを――



 スタースクリームは気付かなかった。
 歩き出した列の最後尾に付きながら、サウンドウェーブが無機質な白いマスクの下で唇を歪ませ、狡猾な笑みを浮かべていたことに。





 げに恐ろしきは“知らぬ”ということだ。
 憐れ。なんと憐れな、
「スタースクリーム」
「あん?」
 新リーダーが一人になるのを待ってサウンドウェーブは声をかけた。
「スタースクリーム“様”だ、サウンドウェーブ」
「一つ忠告する」
 言い直しの促しに応じず、さっさと用件を切り出す。スタースクリームの目に剣呑な光が宿った。
「誰にモノを言ってやがる。立場をわきまえろよ負け犬が」
 そこで彼は腕を組んでサウンドウェーブに正対し、挑発的な笑みを浮かべる。
「まぁいい。俺様は寛大で、しかも今非常に気分がいい。貴様の忠告とやらをありがたく頂戴してやろう。で、なんだ?」
「レーザーウェーブに気を付けろ」
 ――これは布石である。
「何?」
「レーザーウェーブは自分が主と認めた相手にはどこまでも忠誠を尽くすが」
「そうでない者にはその限りじゃないって?」
 スタースクリームは鼻で笑い飛ばした。
「そんなこと、いちいち忠告されるまでもねぇ。隙を見せればそこを突かれる、そんなこたぁ、メガトロンを失脚させた俺が一番よく分かってる」
「……」
「だがな、そんな心配は無用だ。何故なら奴は俺に従うしかないからだ。デストロンを率いれる器の持ち主は俺様しかいないんだからな!」
 ニューリーダーを自任する新リーダーが恥じらいもなく豪語する。その指先がサウンドウェーブに突き付けられた。
「レーザーウェーブに従う以外能がないことは、かつての400万年で証明されている。コンバットロンが反乱した時もだ! つまり、俺様への奴の忠誠心は揺るぎないものってことなんだよ」
 ……げに恐ろしきは“知らぬ”ということだ。憐れ、なんと憐れなスタースクリーム。
「お前に、レーザーウェーブを400万年待たせられるか?」
「あ?」
 本当に意味が分からなかったのだろう。
「そりゃ、どういう意味だ?」
 毒気を抜かれたような調子で問い返すスタースクリームに、しかしサウンドウェーブは答えなかった。
 用は終わったとばかりに踵を返す。呼び止められたが無視した。さすがにそこまで親切に説明してやる義理はない。
 “知らぬ”スタースクリームは、憐れなことだ、そう簡単に気付かないだろう。レーザーウェーブが400万年もの長い間、セイバートロン星でのデストロン軍の権力を維持し、むしろ更に強固にした状態で主の留守を預かりきったという事実が、何を証明しているかということに。
 スタースクリームは、レーザーウェーブがデストロン軍リーダーに忠誠を誓っていると思っているのだろうが、そもそもそれは大きな間違いである。奴が忠誠を誓っていたのはデストロン軍リーダー:メガトロンだ。そして更に厳密に言えば、レーザーウェーブはメガトロンに忠誠を“誓わされて”いたのだ。――力で脅されて? 違う! レーザーウェーブはそのような男ではない。
 では何がレーザーウェーブをひざまずかせていたのか?
 それは、メガトロンの実力と、人格と、そして器だ。その三つが本能というレベルでレーザーウェーブを支配し、従わせていたのだ。音信不通の状態でエネルギー不足に苦しみながらも、400万年頑なに待ち続けるだけの価値があると思わせるほどに――400万年セイバートロン星を実質支配していた男に!
 レーザーウェーブは従うしか能がないのではない。従わされていた彼は、従うことが己の役目だとわきまえていたから従っていたに過ぎぬ。もし従う必要がなくなれば、一転、従わぬ者になるだろう。何故なら、彼のメガトロンへの忠誠心に入り込む隙を見出せず、主に預け任せていた感情や論理などといったものが、途端に持ち主の元に戻ってくるのだから。
 奴は誰もが思っている通り真面目な男だ――デストロン軍兵として。そんなレーザーウェーブが従わぬ者になったら……あとは考えるまでもない。先程彼がスタースクリームに従う意思を見せたのは、主メガトロンがNO.2と認めていた男のお手並みを拝見しようと思ったからにすぎない。
 自室へと戻りながら、サウンドウェーブは内心でくつくつと笑った。レーザーウェーブが本性を見せた時が非常に楽しみだ。俺は忠告したぞ、スタースクリーム。
 だが、もし今回の忠告に気付いたスタースクリームが、やがてリーダーとしての才能を開花させ発揮できるようになるのなら、それはそれで良い。サウンドウェーブにとって大事なのは、デストロンとデストロン内での己の立場の安定なのだ。
 デストロンにサウンドウェーブの能力が必要不可欠なのは明白で、内心ではどう思っていても結局は誰も彼を蔑ろにすることなどできやしない。そしてサウンドウェーブ自身もそれをよく分かっている。
 だからメガトロンがいない今、デストロンを統率できればリーダーなど誰でもいいのだ。ただ付き合いが長く、本質をよく知っているレーザーウェーブの方が幾分御しやすいというだけの話で。
 ――まぁ、せいぜい頑張ることだ。
 デストロンの変革期を迎え、サウンドウェーブは一人、現実的な深い思惑の元にほくそ笑んだ。



END
巷で噂の反逆者ショックウェーブとアニメのレーザーウェーブの人格を繋げてみるテスト(あくまで人格だけ)
タイトルはショックウェーブとかけて、オイルショックみたいなノリで(笑)
それにしても陰険音波はときめきますね。私の構想力ではアレですけど。
でも結局ガル様の登場でプランは徒労に終わる、と。
で、まぁそれはそれで、となる。
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