君の名は
スカイワープが突然、
「スタースクリームって、アイスクリームに似てるよな」
などと言い出した。
「あー……」
「『あー』じゃねぇサンダークラッカー! しかも二人して哀れみこもった目でこっち見んな!!」
「で、スタースってどんなクリームよ?」
サンダークラッカーが尋ねる。
「……温度の違い、とか?」
スカイワープが答える。納得してサンダークラッカーがうなずいた。
「あぁ、アイス→スタース→ホット、みたな」
そこで二人はやはり哀れみこもった目でスタースクリームを見る。
「……ぬるいんだ」
「ぬるいんだな」
「意味分かんねぇよ!!」
「じゃあ逆にアイってどんなスクリームだ?」
再びサンダークラッカーが問う。
「妥当な線で言えば“T”だがよ」
I scream =“私は悲鳴をあげる”。しかしスカイワープは肩をすくめた。
「それじゃつまらんだろ」
「もはやそういう問題かよ」
スタースクリームがすかさずつっこむが、やはり見事に無視。
「ここは“愛”とかどうよ」
とスカイワープ。サンダークラッカーは「ふむ」と腕を組んだ。
「“愛は悲鳴をあげる”……お、ちょっと悪役っぽくね?」
「所詮はアイスクリームだけどな……」
とぼそり呟くスタースクリーム。
「なら“哀”はどうでぇ? “哀スクリーム”ってなんかのロボットアニメのエンディングテーマっぽくならねぇか?」
「所詮はアイスクリームだけどな!」
「日本語で思い出したけどよ」
とおもむろに話し出したのはサンダークラッカーだ。
「知ってるか? 日本じゃパーソナルコンピューターのことを“パソコン”って略すんだぜ」
「へぇ、PCじゃねぇのか」
僅かに驚きを込めて返すスタースクリーム。
「ってことは何か、スタースクリームは“スタスク”だ」
「だからなんで俺の名前を出すんだスカイワープ」
「なんか、スタッ! と着地して、スクッ! と立ち上がる感じだな」
とサンダークラッカー。
「本物はそんなカッコイイもんじゃねぇけどな」
とはスカイワープの談。というか、本人目の前。
「そんなこと言ったら、てめぇだってスカワじゃねぇか! 何処の日本人だよ!」
当然怒ったスタースクリームがスカイワープに怒鳴る。
「おぉ、日本式略称なだけに。巧いこと言うなスタスク」
「嫌味だ嫌味! しかも早速略して呼ぶな須川!」
「じゃぁ俺はサンクラか。なんか盆暗みたいだなははは」
「自分で言うな!!」
「ってことは、だ。レーザーウェーブとかサウンドウェーブも、レザウェとサウウェになるのか? ……サウウェはちょっと言いにくいな」
とサンダークラッカー。
「サウェでいいんじゃね?」
スカイワープが言う。
「もはや誰だか分からねぇし」
すかさずスタースクリームが突っ込む。
「じゃぁ、折角の日本語だし、光波と音波でいいよ」
「っつーかサンダークラッカー、誰が呼ぶことをを前提に『いいよ』とか決めんだ?」
「まぁ、前振りはこれくらいにして」
「前振り!?」
スカイワープの衝撃の真実にスタースクリームが驚く。
「英語だとスタースクリームの愛称は“screamer”なワケだけどよ」
「……今度はどんなおかしなことを言い出すんだスカイワープ?」
「まぁ、いいじゃねぇか、最後まで聞こうぜスタスク」
「だから略すんじゃねぇサンダークラッカー」
「いいからいいから。日本語に意訳するとお前は悲鳴屋になるワケだ」
「じゃぁこれからは悲鳴屋って呼ぶか」
納得したようにうなずいてサンダークラッカーが言う。
「なんでそうなるんだよ」
一方納得できるはずもないスタースクリーム。とはいえ今までのことがある、もはや諦めの境地。
「悲鳴屋ー」
「悲鳴屋ー」
「くッ、なんかムカつく……!」
諦めの境地は何処へやら。拳を握り締め、スタースクリーム歯をぎりり。
ひめーやー
ひめーやー
廊下の角で、肝心な部分を聞かず、でもある意味肝心な部分を聞いていた、新ジェットロン。
「……スタースクリームって姫なのか?」
呻くように呟くラムジェット。
「あ、多分ニューリーダーになるのを早々に諦めて、転向したに違いない!」
絶対当たりだ! とでも言うように明るい顔でダージが言う。
「なるほど、そうかもな! スタースクリームも賢明な判断をしたもんだ!」
とスラストが賛同する。
そして三人は頭を抱えてうなだれた。
「意味分かんねぇ……」
「スタースクリーム」
「……なんですか、メガトロン様」
「お前いつからPrincessになった?」
「はぁ!?」
隣でスカイワープとサンダークラッカーがぶはっと噴き出した。すかさずスタースクリームが睨むと、慌てて手で口を塞ぐ。だがぷるぷる震える体まではどうしようもない。
「なんですかイキナリ。とうとうヒューズいっちまいましたか」
「それ俺の専売特許」
サンダークラッカーが文句を言うが、華麗に無視だ。
「……今の暴言は聞かなかったことにしてやろう。で、どうなんだ」
「どうなんだも何も、そんな馬鹿なことあるワケねぇじゃねぇですか!」
「む、そうなのか。やっとお前も賢明な判断をできるようなったかと思ったんだがな」
「このモウロクじじいめ」
「何か言ったかスタースクリーム」
「いいえ、何も。それより誰がそんなアホなことを言い出しました?」
「ラムジェット達だ」
「おいトンガリ頭共」
スタースクリームが声をかけると、あからさまに体をびくつかせてラムジェット達が振り返る。
「よ、よぅスタースクリーム」とラムジェット。
「ご、ご機嫌麗しゅうだな」とダージ。
「ほ、本日はお日柄も良く」とスラスト。
「……」
ナルビーム掃射。硬直が解けるまでしばらくお待ち下さい。
「で、なんで俺が姫なんて話になってんだ?」
「だってなぁ?」
とラムジェットがダージを振り返り、
「スカイワープとサンダークラッカーがなぁ?」
とダージがスラストを振り返り、
「『姫やー』って呼んでたじゃねぇか」
スラストで〆る。
「……」
この後スカイワープの顔面に、スタースクリームのそれはそれは美しい飛び蹴りがクリティカルヒットしましたとさ。メガトロンが「おー」と拍手する。
……サンダークラッカー? お約束通り、彼は吹っ飛ばされたスカイワープの体に巻き込まれてったよ。
おしまい
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