命の、いと重きこと
――ダイノガイストが死んだ。
「なん……だ、と……?」
プテラは呻いた。
険しいオーラを放って立ち尽くすエクスカイザーを凝視して。
「なっ……ナメたことヌかしてんじゃねぇぞ! ボスが死ぬわけないだろうが!!」
ホーンが怒鳴る。
エクスカイザーは静かに言葉を続けた。
「本当だ……厳密には、私との勝負に負けたと思ったダイノガイストが、自ら命を太陽に投げ出した」
この命は、何者にも渡さない――そう言って。
「……てめぇっ!!!」
怒りを露にホーンがエクスカイザーに飛び掛った。
伸ばした手が、指先が、エクスカイザーの目先で空を掴む。ホーンの体は己が押し込められた牢の格子に遮られた。
「畜生っ! よくもボスを!!」
絶叫に近いホーンの怒声を、エクスカイザーは間近で浴びる。
「ボスが……死んだ……」
アーマーがうわ言のように呟いた。
「てめぇが追い詰めたんだろ……てめぇがやったも同然だろうが……っ!」
普段静かなはずのプテラの怒りが、徐々に鮮烈な赤みを帯び始める。
「いかな宇宙警察と言えど、勝手に命を獲っていいのかよ!? 何様のつもりだてめぇ!!」
「ああ、そうだな――すまん」
「!?」
「エクスカイザー」
思わぬ相手からの思わぬ謝罪に、ガイスターは言葉を失った。側にいたスカイマックスが驚いて名を呼ぶ。
エクスカイザーは己が発言を取り消すようなことはしなかった。居心地の悪い沈黙の中、踵を返して牢から離れる。
後方からサンダーの問いが聞こえた。
「ボス、死んだのか?」
今更ながら状況を認識して仲間に尋ねる。誰も、答えなかった。
「ボス、もう会えないのか?」
やがてサンダーの声からも悲痛な響きが滲み始めた。そのワンテンポ遅れた言動と感情が、尚更事実の無情さを仲間達に思い知らせる。
「ふっ……ふざけんな! ボスが太陽の光如きで死ぬもんかよ!!」
ホーンが叫んだ。事実を否定するように。そして、願うように。
「これから……俺達どうしたらいいんだ……」
アーマーが呻く。その頭を「勝手に殺すな!」とコウモリがド突いた。
――エクスカイザーは牢屋を出る手前で足を止めた。
「お前達にとって――ダイノガイストは“宝”だったか?」
「ああ……?」
背中で、ガイスターの注意が己に向けられたのを感じる。エクスカイザーは答えを待った。
やがて。
「……んなワケねぇだろうが」
プテラが答える。
「……」
エクスカイザーは密かにため息をついた。所詮、“そういう”関係でしかないということなのか……
「ボスを金で計れるわけねぇだろ! ふざけんな!」
ホーンの叫びが牢屋にこだました。
「そうだ、そうだ! ボスは金で買えないんだぞ!!」
サンダーも続く。
「てめぇ、どれだけ俺達をコケにする気だ……?」
プテラが殺気を込めて言った。
「……そうか」
牢内にいながらも、ガイスター達の気迫に陰りがない。エクスカイザーは微かに笑みを浮かべた。そして以上何も言わずに牢屋を後にした。
「エクスカイザー、一体何を考えてるんだ?」
後と追いかけてきたスカイマックスが尋ねる。エクスカイザーは肩をすくめて見せただけで、答えはしなかった。
命とは、なんと重いことか。
相手は重罪人だというのに、追い詰め死なせてしまったことに苛まれている自分がいる。
できればダイノガイストには裁判を受けて欲しかった。例えその先に極刑が待っていたとしても。
その命をギリギリまで燃やし続け、生きて欲しかった。
命とは、宝。
何物にも替え難く、重く、尊いもの。だから――
……いや、だからこそダイノガイストは自ら命を投げ出したのだろう。己が宝を、誇りを、守るために。決して他者の歯車に巻き込まれることなく、ひたすら己の道を貫くために。
自分達の秩序は、突き詰めればエゴのようなもの。それを他者に押し付けてその命を左右すること自体、おこがましいのかもしれない。だからと言って、もちろん宇宙警察の職務に疑問を感じているわけではないが。
それでも……やはり自分がダイノガイストを死に追いやったという罪の意識は拭えない。
命を失わせるということは、重罪なのだ。
ガイスター達が犯す類の罪などではなく、エゴによる“法”という枠を越えた次元における、罪。大いなる宇宙の理に、奇跡に、反する罪。
だから。
ああ、命とはなんと重いことか。
せめて――誇り高き罪人の魂が、生前の咎から解放され、大いなる宇宙に抱かれて安からに眠れることを、心から祈る。
END
……自分が書いた小説に対してウダウダ言うのはポリシーに反するんですが……
今回ばかりはそうも言ってられない状況です。
自分で書いといてこれほど釈然としないものを覚えるのは珍しいです。初めてかもしれません。
まさに奇麗事。はっきり言って理解できません。自分で書いといて。
正直、現実でニュースとか見て極悪人相手に「この人の命も宝」とか思えないし。
「死ねば皆、仏」の方がまだ納得できるってもんです。
……でも、エクスカイザーなら思うかな? と考えながら書きました。
なんたってあのダイノガイスト様に「お前の命も宝」と言い放ったお方ですから。
一体製作者は何を思ってエクスカイザーにそんなセリフを言わせたのでしょう?
しかも子供向けアニメで。
そしてそれを見た当時の子供達は何と思ったのか……(私はDVD−BOXが初見なので)
エクスカイザー、奥深過ぎ。